前回の記事(2014年12月)では、ネット選挙解禁直後の衆院選で「各政党の候補者がどれだけSNSアカウントを持っているか」を手作業で数えてみました。
あれから11年。SNSと選挙の関係はどう変わったんでしょうか?
今年(2026年)2月の衆院選について、NotebookLMのDeep Research機能も使いながら、ネットで調べてみました。
0.今回の選挙のおさらい
2026年2月8日投開票の第51回衆議院議員総選挙。高市早苗内閣の信任を問う形で、解散から投開票までわずか16日間という戦後最短の日程で行われました。
結果は自民党の圧勝。
政党議席数備考自民党316単独政党として戦後最多中道改革連合49立憲民主党+公明党が1月16日に合流した新党日本維新の会36自民党の連立パートナー国民民主党28-チームみらい11AIエンジニア安野貴博氏率いる新党
投票率は56.26%で前回比+2.4ポイント。
2014年当時は「ネット選挙、始まったばかり」という空気でしたが、今回はもう「ネットが選挙の主戦場」と言っていいくらい、状況が様変わりしていました。
1.動画の再生回数から見る「ネット選挙」の規模
2014年の記事では「政党別のSNSアカウント数」を数えるだけでしたが、今は再生回数そのものが追えます。
選挙ドットコム編集長・鈴木邦和氏の分析によると、衆院選関連の動画再生数は28億回で前回衆院選比で約10倍。日常的にYouTubeで政治・選挙情報を見る層は約400万人と推定されていますが、アルゴリズムによる拡散で最大3,000万人にリーチしているそうです。国政選挙では有権者の5割超が「ネットで情報を見て投票を決めた」という調査結果もあります(自由民主党)。
もう一つ興味深いのが、日本経済新聞が独自に行った分析(日本経済新聞)。政治・選挙関連の1,240アカウント、11,240本の動画、総再生回数9億回を調べたところ、
- 匿名アカウント:55%(動画再生数シェア)
- 政党・政治家本人:24%
- インフルエンサー・専門家:9%
- 報道機関:8%
という結果に。2014年は「政党の公式サイトからリンクされているSNSアカウント」しか数えていませんでしたが、今や「誰が発信しているか分からないアカウント」が、政党や政治家本人の発信を軽々と上回っているわけです。しかも批判的な内容の動画は平均より64%多く再生される傾向があり、開設1年未満の匿名アカウントが人気政治家を狙って動画を量産する構図も。ある30代の投稿者は月200万円の収益を得ていた、という取材もありました。日本維新の会が街頭演説動画を広告配信して後に削除する一幕もあり(公職選挙法上の懸念から)、ネットの「バズり」と選挙運動の境界線が11年前よりずっと曖昧になっています。
2.フォロワー数と「ネット地盤」―勝敗を分けたもの
2014年の記事では「SNS活用率」(候補者数に対するアカウント保有率)を出しましたが、今回はフォロワー数の伸びそのものが選挙戦を象徴していました。
高市早苗首相のXアカウントは、自民党総裁選前(9月上旬)の約70万フォロワーから、出馬表明後に急増して投開票日には約100万人、総裁就任からわずか10日間で146万人超、10月13日時点で149万人を突破しました(日経クロストレンド、LASISA)。衆院選の公示期間中も1日1.2万人ペースで増え続け、これは2024年衆院選の玉木雄一郎氏や2025年参院選の神谷宗幣氏の最盛期を上回るスピードだったとのこと。就任から半年でXへの投稿は400回超、歴代首相と比べても圧倒的な発信量でした(Bloomberg)。
この「ネットでの勢い」は、実際の評価にもつながっていたようです。パネル調査(nippon.com)による0(とても嫌い)〜10(とても好き)の「感情温度」では、
政党感情温度自民党4.50国民民主党4.50日本維新の会4.15チームみらい3.89中道改革連合3.03れいわ新選組2.55共産党2.16
党首個人でも、高市早苗氏5.69に対し、中道改革連合の共同代表は野田佳彦氏3.21、斉藤鉄夫氏2.79と大きな差がついています。内閣支持率も石破内閣(2024年10月)の28.0%から高市内閣(2026年1月)は61.0%へと33ポイント急上昇。
選挙ドットコム鈴木氏の分析では、自民党関連のYouTube動画は8割以上がポジティブな内容だった一方、野党第一党だった中道改革連合はネガティブな内容が目立ったとのこと。無党派層、特に若い女性の無党派層で自民党が野党にダブルスコア近い支持を得たと分析されています。
ちなみに中道改革連合は、立憲民主党と公明党が今年1月16日に合流してできたばかりの新党でしたが、支持層が有権者の左右スペクトラム(0左〜10右)の4〜5という狭いレンジに偏っていた一方、有権者全体では右寄り(6以上)が4割を超えていたそうです。「合流すれば票が合算される」という単純な計算は通用せず、結党直後の「ネットでの好感度の低さ」がそのまま議席減という結果につながった、という見方ができそうです。
3.新しい問題:AIフェイク動画
2014年にはまったく存在しなかった論点がこれです。生成AIで作られた偽の動画・画像が、選挙期間中に大量に拡散しました。
日本ファクトチェックセンター(JFC)によると、今回の衆院選に関連して検証した96本の記事のうち16本がディープフェイク関連。2025年の参院選ではほぼ検証対象がなかったことを考えると、急増という表現がぴったりです(日本ファクトチェックセンター)。具体例としては、
- 中道改革連合のロゴを中国風に改変し、中国との関係を示唆する偽情報
- 候補者が不適切なジェスチャーをしているように見せかけた改変画像
- 野田・斉藤両共同代表が踊り出すニセ動画(読売新聞)
- 日本人MLB選手が特定政党への投票を呼びかける偽画像
- 高市首相を熱狂的に応援する人々のAI生成動画(もとは文脈のある生成AIチャンネルの動画だったものが、文脈を欠いたままSNSで拡散)
面白い(というか怖い)のが「嘘つきの分け前」現象。中道改革連合の本物の街頭演説動画までもが「AI生成では?」と疑われてしまい、JFCが複数角度の映像を確認して実際の映像だと判定する一幕もありました。AI判定ツールの誤判定が拡散のきっかけだったそうです。スマホひとつで誰でもディープフェイクを作れる時代になったことで、「本物すら疑われる」という新しい厄介さが生まれています。ちなみに韓国では投票日90日前からのディープフェイク選挙運動を法律で禁止しているそうで、この辺りは日本も今後議論になりそうです。
4.有権者はどう受け止めていたか
LINEヤフーが選挙期間中(2月2〜5日)に実施した調査(20〜60代1,052人)では、4割が「政党や候補者に関する偽・誤情報を見聞きした」と回答。約8割が「情報提供や啓発が不十分」と感じていました(PR TIMES)。
東洋大学・小笠原盛浩教授の調査(投票締切直後の2月10日にかけて、18〜79歳1,793人が回答)では、より踏み込んだ数字が出ています。用意された5件の偽情報のうち1件以上に接触した人が約51%。そして接触した人の約8割が「事実」だと誤認識していました。最も接触率が高かった偽情報は「マンション高騰は外国人の投機目的」(接触率44.4%、誤認識率89.6%)。
意外だったのは、偽情報の情報源としてもっとも多かったのがテレビ(32.7%)で、SNS(20.0%)より上だったこと。しかもテレビ経由で偽情報に触れた人の誤認識率は84.9%と最も高かったそうです(時事ドットコム)。「SNSが悪者」という単純な話ではなく、テレビも含めた情報環境全体の問題、というのが小笠原教授の指摘でした。
5.若い世代とSNS、新党の躍進
25〜39歳の投票率は、他の世代を上回るペースで前回比+5ポイント超上昇しました(読売新聞)。ネットをよく利用する20〜40代の投票先で最も多かったのは国民民主党で、YouTubeのライブ配信やショート動画への共感が投票行動に結びついた可能性が指摘されています。都市部ほどYouTubeやXが活発に使われ、地方ほどLINEが活用される、という地域差もあったようです。
そして今回もっとも象徴的だったのが、AIエンジニアの安野貴博氏が率いる新党「チームみらい」の躍進。X・Instagram・Facebook・YouTube・TikTokをフル活用した選挙戦で、比例381万3,749票+小選挙区156,853票を集め、11議席を獲得しました。感情温度も3.89と、結党から1年以上経つ既存野党の中道改革連合(3.03)より高い評価。「政党のSNS活用率」という2014年的な尺度で見ればとっくに合格点で、むしろSNSでの発信力そのものが政党の存在感を作っている好例と言えそうです。
6.まとめ
11年前は「SNSアカウントを持っているかどうか」を数えるだけで精一杯でしたが、今回調べてみて、論点そのものが様変わりしていることに驚きました。
・「政党公式が発信しているか」より「匿名アカウントがどれだけバズっているか」のほうが再生回数を左右する時代になった
・フォロワー数の伸びやネット上の好感度(感情温度)が、そのまま選挙結果の説明変数になりつつある
・生成AIによるフェイク動画・画像という、2014年には存在しなかったリスクが急増した
・SNSだけでなくテレビも含めた情報環境全体で「誤認識」が広がっている
・SNSを使いこなす新党(チームみらい)が、既存の野党を上回る好感度で議席を獲得する時代になった
手作業でアカウントの有無を数えていた11年前の自分からすると、隔世の感があります。次にこの手のテーマを扱うときは、AI生成コンテンツの見分け方や、ファクトチェック体制そのものを掘り下げてみたいところです。
おまけ:今回の調べ方
2014年の記事では、各党の候補者一覧ページから手作業でSNSリンクをスクレイピングしていましたが(それはそれで大変だった記憶が…)、今回はNotebookLMのDeep Research機能を使いました。「2026年2月の衆院選でSNSがどう選挙運動に使われたか」というクエリを投げると、5分ほどで40件以上のニュース・調査記事を自動で発掘してくれて、その要点をブリーフィング・ドキュメントとしてまとめてくれます。そこからさらに気になった記事を個別に読みに行って裏取りする、という進め方でした。11年前は「手作業でカウントする根気」が求められましたが、今は「AIが集めてきた情報をどう検証するか」が求められる時代になった、というのもまた今回のテーマそのものだなと思います。
参考文献・データ出典
・「【衆議院選挙の全議席確定】自民党が戦後最多316議席・中道改革連合49・維新の会36・国民民主党28」日本経済新聞
・「新党名は「中道改革連合」、略称「中道」に」立憲民主党
・「衆院選でバズる政治家、暗躍する投稿者 YouTube・TikTok動画分析」日本経済新聞
・「『ネット地盤』が選挙結果に大きく影響」自由民主党(選挙ドットコム鈴木邦和編集長分析の紹介)
・「高市首相はなぜ人気か Xポストで見る衆院選中『サナ活』の実態」日経クロストレンド
・「SNS駆使の高市首相、失言回避の『逃げ恥』戦略の見方も」Bloomberg
・「パネル調査による2026年総選挙分析:感情温度で勝った自民、低迷した中道」nippon.com
・「高市首相を熱狂的に応援する高齢者、踊りだす中道…急増したAIによる偽画像/動画」日本ファクトチェックセンター
・「選挙に関する偽・誤情報についての意識調査を実施」LINEヤフー
・「偽情報、8割を『事実』と誤認識 情報源『テレビ』が最多―衆院選で東洋大調査」時事ドットコム
・「衆院選2026 11議席獲得。チームみらいを応援いただき」チームみらい
・調査補助:NotebookLM Deep Research

