地価を決定づける要因は何か? ―横浜線沿線・成瀬駅編―

前回の記事では横浜市泉区の賃貸物件1,554件から家賃の回帰分析を行いました。
今回はその続編として、横浜線沿線の「地価」を最新のオープンデータで見てみます。舞台は成瀬駅です。

0.使用するデータ
・国土交通省 地価公示(令和8年/2026年) ※不動産情報ライブラリ集計のデータを、駅周辺エリア単位で取得
・JR東日本「各駅の乗車人員」(2024年度) ※各駅公式データ

横浜線20駅のうち、東神奈川側から橋本側までバランスよく分布する7駅(東神奈川・中山・長津田・成瀬・町田・淵野辺・橋本)を対象にしました。新横浜駅は新幹線接続・再開発の影響で地価が特殊な動きをしており、駅単位でのクリーンな比較データが取得できなかったため、今回は対象から除いています。

乗車人員(2024年度・人/日)公示地価平均(2026年・円/m²)前年比東神奈川34,547643,750+11.13%中山38,199293,000+3.67%長津田56,211299,666+3.35%成瀬17,239209,076+4.13%町田100,118589,357+4.99%淵野辺35,132191,187+5.20%橋本61,165237,500+5.08%

【図1】横浜線沿線7駅の1日平均乗車人員(2024年度)

【図2】横浜線沿線7駅の公示地価平均(2026年)

ちなみに成瀬駅の地価は、町田市全体の住宅地平均(172,625円/m²)よりやや高めです。乗車人員は7駅中最も少ないのですが、地価は淵野辺より高いというねじれが早くも見えます。

神奈川県全体で見ても、2026年の公示地価は全用途平均+4.4%(5年連続の上昇)、住宅地は+3.4%でした。特に横浜駅に近い地点の伸びが際立っており、西区戸部駅近くの地点は上昇率+14.4%で県内トップになっています(日本経済新聞)。今回の分析で東神奈川駅が「外れ値」になった背景にも、この横浜駅周辺の地価上昇圧力がありそうです。

1.相関係数
「乗車人員が多い駅ほど地価が高い」だろうという予想のもと、相関係数を計算しました。

r = 0.4521(7駅全体)

前回の記事で使った「相関があるかを見つける簡便法」(日本OR学会)を再び使うと、r² > 4/(n+2) が目安でした。
・n=7 のとき、4/9 = 0.444
・r² = 0.204 < 0.444 → 相関ありとは言えないレベル

前回はn=1554だったのでほぼどんな弱い相関でも「有意」になってしまいましたが、今回はn=7しかないので逆にかなり強い相関がないと「意味のある関係」と認められません。まず一発、微妙な結果が出ました。

【図3】乗車人員と地価の散布図・回帰線

東神奈川という外れ値
散布図を目で見ると、東神奈川駅だけが浮いています。乗車人員はそこそこ(34,547人)なのに地価は突出して高い(643,750円/m²)。これは横浜駅の商業中心地に隣接しているためで、自駅の乗降客数よりも「横浜駅までの近さ」が地価を押し上げていると考えられます。

そこで東神奈川を除いた6駅で再計算すると、

r = 0.8784
・n=6 のとき、4/8 = 0.5
・r² = 0.772 > 0.5 → 相関ありと言えるレベル

外れ値を1つ除いただけで結果が反転しました。

2.回帰分析
Y=地価(円/m²)、X=乗車人員として回帰式を求めます。

7駅全体(東神奈川を含む):
地価 = 199,076 + 3.12 × 乗車人員

この式に成瀬駅の乗車人員(17,239人)を当てはめると、予測地価は252,915円/m²。実測(209,076円/m²)は予測より-17.3%低いので、「乗車人員の割に地価は控えめ=ちょっとお得」に見えます。

東神奈川を除いた6駅:
地価 = 72,067 + 4.50 × 乗車人員

こちらで成瀬駅を予測すると149,704円/m²。実測(209,076円/m²)は予測より+39.7%高いので、今度は「乗車人員のわりに地価は割高」という真逆の結論になります。

3.定量分析だけでは見えないもの
回帰分析はどこまでも「乗車人員」という一つの数字と地価の関係しか見ていません。成瀬駅周辺を調べてみると、地価が予測より高めに出る理由に心当たりがあります。

成瀬駅周辺は昭和40年代に大規模な区画整理が行われ、駅前からすぐに整然とした低層住宅街が広がっています。徒歩5分の恩田川沿いには桜並木の遊歩道があり、成城石井をはじめとしたスーパーも複数あるなど、生活環境としての評価は高いようです(賃貸スモッカ)。乗車人員という「駅の忙しさ」だけでは測れない住環境の良さが、地価に上乗せされているのかもしれません。

一方で、町田市全体で見ると人口は2020年頃をピークに減少局面に入り、2060年には34.3万人まで減ると推計されています(町田市人口ビジョン)。人口が減っていく街で地価が上がり続けるという状況は、前回の家賃分析で見たような「常識的な結果」とは少し違う、不思議な現象です。

4.まとめ
・横浜線沿線の地価と乗車人員には、外れ値(東神奈川)の扱い次第で相関の強さも回帰式の傾きも大きく変わることがわかりました。素直に横浜側の商業中心地に近い駅を「特殊」として除くと、r=0.88というかなり強い相関が出ます。
・その「素直な」モデルで見ると、成瀬駅は乗車人員の割にやや地価が高め、という結果になりました。前回の家賃分析ほどスッキリした結論にはならず、「外れ値の扱いで結論がひっくり返る」という、サンプル数が少ないときの分析の危うさを実感する回になりました。
・ただし区画整理された住環境の良さなど、乗車人員という数字だけでは説明できない要因もありそうです。人口減少が見込まれる中でも地価が上がり続けている点も含め、定量データだけでは片づけられない部分が多く残りました。
・n=7(もしくは6)というサンプルサイズの小ささは大きな限界です。今回は駅単位の集計値を使いましたが、次回は不動産情報ライブラリのAPI(要申請)を使って横浜線20駅全ての取引価格データを取得し、もう少し頑健な分析をしてみたいと思います。

参考文献・データ出典
・国土交通省 地価公示(令和8年) / 不動産情報ライブラリ集計
・JR東日本 各駅の乗車人員データ(2024年度)
・「相関があるかを見つける簡便法」http://www.orsj.or.jp/~archive/pdf/bul/Vol.42_07_493.pdf
・「【公示地価2026】神奈川県4.4%上昇 5年連続、住宅地は横浜駅周辺の伸び鮮明」日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC115VM0R10C26A3000000/
・「成瀬駅の住みやすさ」賃貸スモッカ https://smocca.jp/livability/tokyo/station/2177100
・「第2期町田市人口ビジョン」町田市 https://www.city.machida.tokyo.jp/shisei/sinokeikau/machi_hito_shigoto/sougousenryaku_gaiyou.files/jinko-vision2.pdf