商圏や立地の判断に使うデータは、国勢調査も住民基本台帳も人流データも、すべて「過去」です。では衛星画像は、これらの統計より早く地域の変化を教えてくれるのか。
弊社の所在地である町田市の実データで検証しました。結論から書きます。
- 住民基本台帳と比べると16.0ヶ月早く、新規開発を検出できた
- ただし建築着工統計(国が月次で公開)と比べると、先行しない。ほぼ同時期だった
- 既成市街地の建替えは、光学衛星では検出できなかったが、SAR(合成開口レーダー)を使うと検出できた
- 使用したデータはすべて無償の公開データ。商用衛星画像の購入はゼロ
「衛星は統計より早い」という単純な話ではありません。何と比べるか、どのセンサーを使うかで結論が変わります。この記事では、良い結果だけでなく、比較して初めて分かった限界と、その限界を別の手法で越えられた経緯まで書きます。
使ったデータ
| データ | 出典 | 内容 |
|---|---|---|
| 町丁別世帯数・人口表 | 町田市(CC BY 4.0) | 住民基本台帳、月次、町丁別。2017年1月〜2026年9月の117ヶ月・212町丁 |
| Sentinel-2 L2A | ESA / AWS Earth Search | 光学衛星、10m分解能、5日周期 |
| Sentinel-1 RTC | ESA / Microsoft Planetary Computer | SAR(合成開口レーダー)、10m分解能、地形補正済み後方散乱 |
| 町丁目境界 | e-Stat 統計GIS(2020年国勢調査 小地域) | 町田市220地区のポリゴン |
| 住所検索・逆ジオコーディング | 国土地理院 | 地点の町丁判定 |
まず、市全体の統計では何も見えない
町田市の総人口は10年間でほぼ横ばいです。2017年1月の428,572人に対し、2026年1月は430,428人。わずか+0.4%。
ところが同じ期間に、個別の町丁ではこれだけのことが起きていました。
| 町丁 | 10年間の変化 | 急増時期 |
|---|---|---|
| 小山ヶ丘6丁目 | 559人 → 2,132人(+281%) | 2021年8月に単月+631人 |
| 鶴間4丁目 | 1,362人 → 3,055人(+124%) | 2022年4月に単月+593人 |
| 鶴間3丁目 | 850人 → 1,749人(+106%) | 2024年4月+360人、5月+304人 |
いずれも階段状です。数年間フラットが続き、ある月に数百人が一気に増え、また平らになる。大規模マンションの竣工と入居を反映した動きです。
市区町村単位の統計を見ている限り、この動きは完全に見えません。そして出店や販促の判断単位は、市ではなく町丁です。
人口統計と比べると、16ヶ月早く検出できた
町丁目の境界ポリゴンでマスクしたうえで、Sentinel-2のNDVI(植生指数)の差分を計算し、最大の変化域(500m²)を特定しました。その場所のNDVIの推移です。
| 時期 | NDVI |
|---|---|
| 2019年1月 | 0.35 |
| 2019年12月 | 0.29 |
| 2020年4月 | 0.09(ここで検知) |
| 2020年8月 | 0.01 |
| 2021年8月 | 0.04(以後フラット) |
植生に覆われていた土地が2019年末から2020年前半にかけて造成され、NDVIが0.35から0.09へ低下し、その後回復しません。2020年4月2日の画像で確定的に検知できました。
この開発が人口統計に現れたのは2021年8月(+631人)。差は16.0ヶ月です。この16ヶ月のあいだ、住民基本台帳にも国勢調査にも人流データにも、この開発は一切現れていません。
ただし、建築着工統計とはほぼ同時期でした
ここが本記事で一番お伝えしたいことです。国は建築着工統計を月次で公表しています。この統計と比べると、私たちの検出は先行していませんでした。
対象地に建設されたのは12階建て・425戸の大規模分譲マンションで、2021年4月に竣工、2021年6月に入居が始まっています。12階建ての建築期間(着工から竣工まで)はおよそ15〜17ヶ月が目安とされるため、逆算すると着工は2019年11月〜2020年1月ごろだったと推定できます。
私たちが衛星で捉えたNDVI低下の時期は、2019年12月から2020年4月。着工の時期とほぼ重なります。
| 段階 | 時期 | 情報源 | 分かる範囲 | 遠隔取得 |
|---|---|---|---|---|
| 建築確認(着工前) | 2019年後半〜 | 建築計画概要書 | 住所・規模まで分かる | 不可(窓口での物理閲覧のみ) |
| 着工 | 2019年11月〜2020年1月ごろ | 建築着工統計 | 市区町村の合計値のみ。住所は不明 | 可(月次・無償) |
| 造成〜工事 | 2019年12月〜2020年4月 | 衛星画像(本検証) | 住所レベルの位置と広がり | 可(無償データで再現可能) |
| 入居開始 | 2021年6月 | 業界データ | 個別物件 | 可(有償) |
| 人口統計に出現 | 2021年8月(+631人) | 住民基本台帳 | 町丁単位 | 可(月次・無償) |
つまり、衛星は着工統計より早いわけではありません。むしろ、着工前の建築計画概要書という手段はすでに存在します。ただしこちらは自治体の窓口に出向いて1件ずつ閲覧する必要があり、市内全域を継続的に見張る用途には使えません。
私たちが提供できる価値は「早さ」ではなく、建築着工統計にはない「どこで」という位置情報を、人手をかけずに市内全域について自動的に、継続して得られることです。
既成市街地では、光学衛星が機能しませんでした
もう一つ、正直にお伝えすべきことがあります。鶴間三丁目・鶴間四丁目では、光学衛星による同じ手法が機能しませんでした。
理由は単純で、既成市街地では建物が建物や駐車場を置き換えるため、植生指数がほとんど動かないからです。NDVIの時系列は季節変動に埋もれ、検出された変化域も町丁の0.2〜0.6%と小さく、信頼できる結果になりませんでした。
そこで鶴間三丁目について、植生指数ではなく可視光の明るさで再検出したところ、4,200m²の変化域が得られました。2023年初頭から明るさが単調に上昇し、2024年半ばで頭打ちになる——工事の進捗そのものの曲線です。人口に現れたのは2024年4月でした。
ただしノイズが大きく、確信を持って検知できるのは4ヶ月前程度。鶴間四丁目にいたっては明るさの変動が大きすぎ、10m分解能の光学衛星では検出不可と判断しました。
SAR(合成開口レーダー)なら検出できました
光学が完全に見えなかった鶴間四丁目で、Sentinel-1のSARデータ(無償・無認証で取得可能)を使って再検証しました。SARは電波の反射(後方散乱)を測るため、建物のような立体構造には植生と違う強い反応が出ます。
ただし一つ注意が必要でした。Sentinel-1は昇交軌道と降交軌道で同じ場所でも入射角が異なり、混在させると数dBのノイズが乗ります。軌道方向を統一して2019年から長期の時系列を取ったところ、明瞭な変化が見えました。
| 時期 | 後方散乱 |
|---|---|
| 2019年1月〜2020年9月(静穏期) | 平均-5.84dB(SD 1.59、20ヶ月安定) |
| 2020年10月12日 | 統計的に有意な上昇を継続的に確認(ここで検知) |
| 2020年12月〜2021年5月 | +2〜+6dB(躯体工事のピークと推定) |
| 2021年8月以降 | -1〜-3dB(外装完成後の安定水準) |
検知した2020年10月12日から、人口統計に現れた2022年4月(+593人)までのリードタイムは17.6ヶ月。光学衛星が全く手が出なかった場所で、これだけ早い段階から変化を追えました。
鶴間三丁目でも同じ手法を試し、統計的に確実な変化開始を2023年5月30日に確認しています(人口統計出現の2024年4月まで10.1ヶ月のリードタイム)。ただしこちらは2022年春ごろにもう一段階の変化の兆候があり、より早い段階の検知はさらに長期の基準データで裏付けが必要だと考えています。
まとめると、既成市街地の建替えは光学衛星では見えないが、SARなら見えることが今回の検証で分かりました。ALOS-2のようなL-band SARの無償グローバルモザイクは25m分解能と粗く、この規模の変化検出には向きません。都市部の再開発を面的に追うなら、現時点ではSentinel-1が最も実用的です。
実務上の落とし穴
検証の過程で、そのまま集計すると誤った結論に至る事象が複数見つかりました。
- 町丁の分割:南大谷が2024年秋に南大谷1〜7丁目へ分割されています。単純に前年同月差を取ると、南大谷が「11,419人 → 141人」で1万人以上減ったように見えます
- 市域の食い込み:鶴間3・4丁目の周囲800m圏には神奈川県大和市が含まれます。町丁目境界でマスクしないと、他自治体の変化を町田市の変化として拾ってしまいます(実際、最初の試行では大和市の造成地を検出していました)
- 季節変動:NDVIは同じ地点でも月によって0.2以上動きます。比較するシーンの季節を揃えないと誤検出します
- SARの軌道方向:昇交軌道と降交軌道を混在させると、実際の変化より大きなノイズが乗ります。軌道方向を統一するか、統計的に有意な変化かどうかを基準期間の標準偏差から判定する必要があります
まとめ
無償の公開データだけで、更地由来の新規開発を町丁単位で捉えられることが確認できました。ただし「統計より早い」という言い方は、比較対象を人口統計に限れば正しく、建築着工統計に対しては成立しません。
私たちが提供できるのは、早さではなく、着工統計にはない位置の情報を、人手をかけずに市内全域について自動的・継続的に得られることです。既成市街地の建替えには光学だけでは足りず、SARを組み合わせる必要があることも、今回はっきりしました。
対象エリアがどの手法に向くかは、無償データの試算で先に判定できます。費用をかける前に、何がどこまで見えるかをお示しできるということです。
同様の分析をご検討の方は、対象エリアと知りたいことをお聞かせください。
