「違法ヤード」は衛星データで見つかるか?Sentinel-1/2×オープンデータの手法を町田市で検証

全国で「違法ヤード」が話題になっています。盗難車や中古車を無許可の資材置き場・作業場(ヤード)に集めて解体・輸出する事案が各地で摘発され、埼玉・千葉・茨城・群馬などでは独自の「ヤード条例」が先行して運用されてきました。国もようやく重い腰を上げ、2026年には全国一律の許可制・罰則(最大3億円)を盛り込んだ法整備の議論が進んでいます。

弊社は町田市の実データで宅地開発を検証した前回記事で、Sentinel-1(SAR)・Sentinel-2(光学)・オープンデータを組み合わせる手法を確立しました。同じ技術は「違法ヤードのスクリーニング」に応用できるのか。これを検証します。

この記事の位置づけ(重要)
本記事は、町田市に違法ヤードが存在すると主張するものではありません。町田市内の実在する合法の中古車販売店を「陽性対照(正解が分かっているサンプル)」として用い、衛星データで車両金属の集積地がどう見えるかという手法そのものを検証したものです。分析の過程で得られた座標・住所・具体的な地番は一切公開せず、掲載する画像は広域・低解像度にとどめています。特定の場所や事業者を「怪しい」と名指しする内容は含まれません。

仮説:金属の集積地はSARで「特徴的」に見えるはず

Sentinel-1のSAR(合成開口レーダー)は電波の反射(後方散乱)を測るセンサです。金属は電波をよく反射するコーナーリフレクタとして働くため、船舶検知などでは海面に浮かぶ金属船体が周囲より明るく写ることが知られています。違法ヤードは大量の車両・金属スクラップが屋外に密集する場所なので、同様に周囲と異なるSAR特徴を示すのではないか、というのが仮説です。

検証方法:実在する合法カーディーラーを「陽性対照」に

仮説を確かめるには、車両が確実に密集している場所のSAR特徴を知る必要があります。そこで、OpenStreetMapに登録されている町田市内の実在する中古車販売店(敷地約2,700m²、合法・通常営業中の事業者)を陽性対照に選びました。

  • 対象:町田市南部、幹線道路沿いの中古車販売店(具体的な地名・地番は非公開)
  • データ:Sentinel-1 RTC(Microsoft Planetary Computer)、2023〜2025年、降交軌道(descending)に統一
  • 比較基準:前回記事の鶴間三丁目ケーススタディで得た「宅地・静穏期」の基準値(平均-3.29dB、SD1.16)
町田市南部の広域衛星写真。地点特定を避けるため広域・低解像度で掲載
検証対象エリアの広域図(地点特定を避けるため広域・低解像度で掲載)

結果:「明るいが、思ったほど単純ではない」

8シーンの時系列で敷地内・敷地周辺のdB値を比較しました。

 
 
領域 平均後方散乱(8シーン平均) 単一シーンでの最大値
中古車販売店の敷地内 -8.27dB(SD 1.13) -0.6〜-0.9dB(明るい画素あり)
敷地周辺(住宅・道路混在) -6.51dB(SD 0.32)
参考:宅地・静穏期の基準値(前回記事) -3.29dB(SD 1.16)
 
 
中古車販売店敷地のSentinel-1後方散乱(dBスケール、グレースケール可視化)
中古車販売店敷地のSentinel-1後方散乱(dBスケール可視化)。明暗が入り混じったテクスチャが特徴

意外だったのは、敷地内の「平均」は基準値よりむしろ暗いという結果でした。理由は舗装面にあります。アスファルトの平坦な駐車場は電波を鏡面反射的にそらしてしまうため、SAR的にはほぼ「暗い」領域として写ります。一方で車両の金属ボディはコーナーリフレクタとして局所的に強く反射するため、単一シーンでは敷地内に-0.6〜-0.9dBという明るい画素が確認できました

つまり実態は「一様に明るい」のではなく、「暗い舗装」と「明るい車両」が混在するまだら状のテクスチャです。ただしSentinel-1 RTCの解像度は10m。約2,700m²の敷地はわずか29画素にしかならず、統計的に安定した特徴量を取り出すには手持ちのシーン数・敷地規模ともに小さすぎました。

SAR単独では「合法/違法」は判別できない

この「暗い舗装+明るい金属点」というテクスチャは、違法ヤードに限った特徴ではありません。合法の中古車販売店、正規の廃車リサイクル施設、資材置き場、農業用の大型機械置き場など、屋外に金属物を置く用途であれば同じように見えます。SARの後方散乱だけを根拠に「ここは違法ヤードだ」と判定することはできません。これは今回の検証で得られた、誇張のない結論です。

実務で使うなら:複数データの掛け合わせによる「絞り込み」

違法ヤードの本質的な問題は「土地の使い方」にあります。多くのケースで、市街化調整区域や農地転用の手続きを経ずに、資材置き場として無許可で使われている点が問題視されます。したがって衛星データ単独ではなく、以下のようなオープンデータとの突き合わせで候補地を絞り込む設計が現実的です。

  1. Sentinel-2(光学):前回記事の手法で、植生・農地が舗装地や資材置き場に変化した地点を面的にスクリーニング
  2. Sentinel-1(SAR):光学で変化が疑われた地点について、金属反応の有無(明暗混在のテクスチャ)を補強材料として確認
  3. 国土数値情報 用途地域データ:候補地が市街化調整区域・非線引き白地地域など、資材置き場として通常想定されない用途地域に該当するかを確認
  4. 農地の区画情報(筆ポリゴン):候補地が登記上は農地のままかどうかを確認(無断転用の典型パターン)
  5. 自動車リサイクル法の登録事業者リスト:候補地の事業者が引取業者・解体業者として適法に登録されているかを確認

この5段のフィルタを通過して初めて「行政・警察による現地確認が必要な候補地」として扱う、というのが現実的な設計です。最終的な違法性の判断は、権限を持つ自治体・警察等が行うべきものであり、衛星データの役割はあくまで「見張る人手が足りない広域を、優先順位付けして絞り込む」ことに限られます。

制度の動き

ヤードをめぐっては、盗難車の不正輸出や無許可就労との関連が指摘され続けてきました。埼玉県・千葉県・茨城県・群馬県などは条例で独自にヤード事業者への届出・許可制を敷いていますが、都道府県ごとに基準がばらばらで、規制の緩い地域に事業者が移動する「規制逃れ」が課題でした。2026年には、これを是正する全国一律の許可制・罰則(最大3億円)を盛り込んだ法整備の議論が国会で進んでいます。

まとめ

実在する合法な中古車販売店を陽性対照として検証した結果、SARは車両金属の存在を示唆する特徴(明暗混在のテクスチャ)を捉えられる一方、それ単独では合法・違法を区別できないことが分かりました。実用化には、光学衛星による変化検出、用途地域・農地筆ポリゴン・事業者登録リストといったオープンデータとの掛け合わせによる絞り込みが不可欠です。

広域を人手で見回るのが難しい自治体・警察にとって、こうした「衛星データ+オープンデータ」のスクリーニングは、現地確認の優先順位を決める判断材料になり得ます。同様の絞り込みを自治体や事業者向けに設計したい場合は、お気軽にご相談ください。