ガンダム(令和)をアニメソングから考える

12年前、「ガンダム(昭和・平成)をアニメソングから考える」という記事を書きました。
宇宙世紀ガンダム(51曲)とアナザーガンダム(107曲)の歌詞をMeCabで形態素解析し、「一曲あたりの単語出現回数」を数えて頻出語トップ20を比較する、という個人的な投稿でした。
結論は「どちらも君・夢・心・愛・胸が頻出。宇宙世紀のほうが英単語が多い」というささやかなものでしたが、当時の自分なりに真面目にやった記憶があります。

あれから12年。令和になり、ガンダムの主題歌を歌っているアーティストの顔ぶれがすっかり様変わりしました。
というわけで今回は、令和(2019年〜)のガンダムシリーズ主題歌を対象に、”12年後を振り返る”シリーズとしてもう一本書いてみます。

まず先に白状しておくと、今回は前回のような歌詞の形態素解析はやっていません。
歌詞サイトを何箇所か当たったのですが、著作権保護されている歌詞全文を機械的に取得して処理する行為はさすがに具合が悪く、断念しました。
(12年前の自分がどこまで気にしていたのか今となっては分かりませんが、令和の基準で襟を正すことにします。)

代わりに今回は、「歌詞の中身」ではなく「誰が歌っているか」「どれだけ聴かれているか」というデータで、令和ガンダムの主題歌シーンを定量的に眺めてみることにしました。

令和ガンダム主題歌、まずは一覧

2019年以降にテレビ・劇場・配信で公開された主なガンダム作品と、その主題歌をまとめました。

公開年 作品 種別 楽曲名 アーティスト
2019 ガンダムビルドダイバーズRe:RISE 1st OP リライズ スピラ・スピカ
2019 同上 ED MAGIC TIME スダンナユズユリー
2020 ガンダムビルドダイバーズRe:RISE 2nd OP HATENA PENGUIN RESEARCH
2020 同上 ED Twinkle スピラ・スピカ
2021 閃光のハサウェイ(劇場版・第1作) 主題歌 閃光 [Alexandros]
2022 水星の魔女 第1期 OP 祝福 YOASOBI
2022 同上 ED 君よ気高くあれ シユイ
2023 水星の魔女 第2期 OP slash yama
2023 同上 ED Red:birthmark アイナ・ジ・エンド
2023 ガンダムビルドメタバース OP ヒカリトカゼ BACK-ON
2024 機動戦士ガンダムSEED FREEDOM(劇場版) 主題歌 FREEDOM 西川貴教 with t.komuro
2024 機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム(Netflix) OP Perpetuum Mobile Wilbert Roget, II
2025 機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス) OP Plazma 米津玄師
2025 同上 ED もうどうなってもいいや 星街すいせい
2026 閃光のハサウェイ キルケーの魔女(劇場版・続編) OP Snooze SZA
2026 同上 ED Sweet Child O’ Mine Guns N’ Roses

一覧にしてみて自分でも驚いたのですが、末尾2行、二度見しますよね。
「機動戦士ガンダム」のエンディングテーマがガンズ・アンド・ローゼズの「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」って、12年前の自分に言っても絶対信じてもらえないやつです。

令和ガンダム主題歌、”聴かれ方”を数字で見る

令和はストリーミング全盛期です。CD売上・オリコン最高順位が指標だった時代と違い、「累計ストリーミング再生回数」が主題歌の”強さ”を示す共通言語になりました。ビルボードジャパン等の報道で確認できた数字を並べてみます。

令和ガンダム主題歌、累計ストリーミング再生回数の比較グラフ

【図1】令和ガンダム主題歌、累計ストリーミング再生回数

楽曲 アーティスト チャート実績
祝福 YOASOBI 累計ストリーミング4億回突破(2026年時点)。Billboard JAPAN 2023年年間Hot 100で15位
Plazma 米津玄師 Billboard JAPAN Hot 100初登場1位(2025年1月)。累計ストリーミング2億回突破、自身9作目の到達
もうどうなってもいいや 星街すいせい Billboard JAPAN Download Songs首位デビュー。VTuberの主題歌起用としては異例の実績
FREEDOM 西川貴教 with t.komuro オリコン週間デジタルシングルランキング2週連続1位。Billboard JAPAN Download Songsも1位
閃光 [Alexandros] 累計ストリーミング1億回突破(自身2曲目の到達)

参考までに、平成のガンダム主題歌を1曲だけ引き合いに出します。
森口博子さんの歌手デビュー曲でもある「水の星へ愛をこめて」(Zガンダム、1985年)は、当時のオリコン最高順位が17位でした。
のちにNHKの「オールガンダム大投票」で361曲中1位に選ばれるほど愛された名曲ですが、リリース直後の”数字”としては、令和の主題歌群が軒並みチャート1位や億単位の再生数を叩き出しているのとは、ずいぶん景色が違います。
もちろんCD時代とストリーミング時代の指標を単純比較はできませんが、「アニメの主題歌が”アニメの中だけで愛される曲”から”世の中のヒットチャートで戦う曲”に変わった」という肌感覚は、数字にも表れているように思います。

起用アーティストの三段階グラデーション

一覧表を眺めていて気づいたのは、令和のガンダム主題歌の”出自”が、時系列で緩やかにグラデーションを描いていることです。

段階 特徴 該当例
第1段階(2019〜2021年) 従来通りの”アニソンシーン”のアーティスト スピラ・スピカ、PENGUIN RESEARCH、[Alexandros]
第2段階(2022〜2025年) 一般のJ-POPチャートで既にトップを走るアーティストの起用 YOASOBI、yama、米津玄師、西川貴教×小室哲哉
第2.5段階(2025年) YouTube・ボカロ・VTuberなど”ネット発”の文脈を背負ったアーティスト 米津玄師(ボカロP”ハチ”出身)、星街すいせい(ホロライブ所属VTuber)
第3段階(2024〜2026年) 日本のアニメの枠を越え、海外のトップアーティスト・作品自体が英語圏向けに制作 Netflix「復讐のレクイエム」(英語オリジナル)、SZA、Guns N’ Roses

特に第2.5段階は象徴的だと思っていて、米津玄師さんは「ハチ」名義でニコニコ動画にボーカロイド曲を投稿していた人ですし、星街すいせいさんはVTuberとして「THE FIRST TAKE」に史上初出演したり、「ビビデバ」でBillboard Hot100の19位に入ったりと、既存の音楽業界の外側で実力をつけてきたアーティストです。
つまり令和のガンダムは、「テレビ・CDというマスメディアの中で育ったアニソン文化」から「ネットで育ったアーティストがマスに逆流してくる文化」への転換を、そのまま主題歌のラインナップに映し出しているように見えます。

そして「水星の魔女」最終回では、放送中のOP「祝福」の歌詞の一節がそのままサブタイトル(「目一杯の祝福を君に」)に使われ、SNSのトレンドがこの一作の関連ワードで埋め尽くされる、という現象も起きました。主題歌が”作品の外側を飾るタイアップ”ではなく、”物語の一部”として機能する時代になった、という点は12年前とは大きく違うところです。

おまけ: 平成の名曲は令和でも生きている

もう一つ、調べていて面白かった小ネタを。
逆襲のシャアの主題歌「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」(TM NETWORK、1988年)は、2021年に楽曲データを収めたSDメモリーカードが国際宇宙ステーション(ISS)に打ち上げられ、”宇宙を越える”というタイトルを物理的に実現するという企画がありました。
そしてこの曲、2025年には「ジークアクス」の挿入歌として「-2025 Version-」がリリースされています。
平成の名曲が令和の新作の中で生き続けている、というのは、主題歌が単なる”その時代の消費物”ではなく、シリーズ全体の記憶を運ぶ器になっていることの表れだと思います。

令和ガンダムの主題歌シーンの変遷を示すインフォグラフィック THE GUNDAM SONG SHIFT

【図2】令和ガンダムの主題歌シーンを1枚で(THE GUNDAM SONG SHIFT)

まとめ、というか反省点

今回、形態素解析をやらなかった一番の理由は著作権への配慮ですが、正直に言うと「令和の歌詞をちゃんと分析するには、令和のAI(僕自身)の力を借りればMeCab辞書のメンテに苦労した12年前より楽にできたはず」という悔しさも少しあります。
とはいえ、「歌詞の中身」を数えられなくても、「誰が歌い、どれだけ聴かれ、SNSでどう話題になったか」という周辺データだけでも、ガンダムの主題歌が背負っている時代性は十分に見えてくるものだな、というのが今回の発見でした。

次に振り返るとしたら12年後、2038年でしょうか。そのころにはAIが作詞作曲した主題歌を、AIが解析してブログを書いている気がしてなりません。