「特定地域のツイートを抜き出す」を11年後にリブートしてみたら、無料で自由だった時代は終わっていた話

2015年1月16日、この基地で「特定地域のツイートを抜き出す」という記事を書きました。
Twitter Search APIのgeocodeパラメータに緯度経度と半径を渡すだけで、その円内に投稿されたツイートが誰でも無料で取得できた時代の話です。
横浜駅から半径20km、弐生台駅(相鉄線)から半径5kmのツイートを1週間分集めて、時間帯別の推移や赤レンガ倉庫・大さん橋ふ頭・野毛の飲み屋街の盛り上がり方を地図にプロットして遊んでいました。

あれから11年。
「今ならもっと簡単に、もっと面白い分析ができるだろう」と思ってNotebookLM CLIのDeep Researchで調べ直したところ、待っていたのはまったく逆の結論でした。
2015年に個人ブロガーが無料でできていたことは、2026年にはほぼ不可能になっています。今回はその「11年間で何が起きたか」をrebootしてお届けします。

【アイキャッチ】2015年の牧歌的な地域別ツイート分析から、2026年の有料API・防災ハッシュタグ時代への変化を描いたインフォグラフィック

1. 2019年6月、静かに消えた「精密な位置情報」

2015年時点でも、実際にGPS座標(緯度経度)を公開してツイートしていたユーザーは全体の1.6%程度と、そもそも多くはありませんでした。
それでも「一部の人がやっている」からこそ、geocode検索には意味がありました。

ところが2019年6月18日、Twitter社(現X)は公式サポートアカウントを通じて、投稿への精密な位置情報タグ付け機能の廃止を発表します。理由は「ほとんどの人がこの機能を使っていないので、ツイート体験をシンプルにするため」。
例外としてカメラアプリ経由の写真・動画投稿(FoursquareやYelpとの連携)にはその後も精密な位置情報が残りましたが、通常のテキストツイートから緯度経度が消えたことで、2019年9月時点でGPS座標付きツイートの割合は0.08%未満(1日3億4000万ツイート中わずか25万件)にまで落ち込みました。

時点 GPS座標付き投稿の割合 主な出来事
2015年頃 1%台前半(横浜駅記事の頃) プライバシー意識の高まりでデフォルト位置情報オフが浸透しつつあった時期
2019年6月 廃止直前・利用は僅少 Twitter社が精密な位置情報タグ付け機能の廃止を発表(6/18)
2019年9月 0.08%未満(Placeは約1.2%) 廃止後、GPS座標付きツイートが激減。大まかな「Place」タグは相対的に維持
2026年現在 ほぼ0%(個人利用ベース) API有料化・従量課金化も重なり、座標データの取得自体が個人には非現実的に

面白いのは、都市やランドマーク単位の大まかな「Place」タグの利用率(約1.2%)はそこまで下がっていない点です。
ユーザーは「緯度経度まで晒す」ことは避けても、「横浜にいる」くらいの情報は共有し続けている。2015年の記事で使ったのは前者(GPS座標ベースのgeocode検索)だったので、この11年でまさに狙い撃ちで縮小されたやり方だったことになります。

2. 2023年、API有料化でトドメ

位置情報タグそのものが減っただけなら、まだ「頑張って検索すれば拾える」で済んだかもしれません。しかし2023年2月、それまで無料提供されていたTwitter APIが有料化されます。
2026年現在のX API v2は、新規開発者向けにはさらに「従量課金制(Pay-Per-Use)」がデフォルトになっており、旧来のgeocodeパラメータに相当するpoint_radius(緯度経度+半径)やbounding_boxといった演算子自体は健在なものの、使うたびに課金が発生する仕組みに変わっています。

プラン 月額固定費 読み取り 位置情報検索
Free $0 不可(書き込み専用・月500投稿まで) 不可
Pay-Per-Use(新規デフォルト) $0 投稿$0.005/件・ユーザー$0.010/件、月200万件上限 直近7日分のみ、point_radius等が利用可
Basic(既存契約者のみ・段階的廃止中) $200 月1万〜1.5万件 直近7日分のみ
Pro(新規募集終了) $5,000 月100万件 全期間検索+リアルタイム配信
Enterprise $42,000〜 要交渉 無制限

2015年の記事でやったような「1週間分、2地点、時間帯別に集計」を仮に2026年のPay-Per-Useでやろうとすると、1回のリクエストで数百〜数千ツイートを読み取るたびに数ドル単位の課金が発生します。個人のブログ企画としては、技術的には可能でも心理的なハードルが一気に上がった、というのが実感に近いところです。

3. それでも起きた炎上――特務機関NERVと能登半島地震

この「API制限」が単なる開発者の愚痴では済まなかった事例があります。
国内最大級の防災情報アカウント「特務機関NERV」(運営: ゲヒルン)は、2023年8月の時点でXのAPIレート制限を理由に、停電情報や避難情報の自動投稿を一部縮小していました。

そして2024年1月1日18時6分、令和6年能登半島地震の発生直後、地震・津波・避難情報を短時間で大量に自動投稿した結果、XのAPI使用回数の上限(ハードキャップ)に達し、自動投稿そのものが完全に停止してしまいます。約3時間半後にX社から緊急に「Public Utilities App(公共インフラアプリ)」としての特別登録連絡があり、レート制限が緩和されて復旧しましたが、この一件は「災害時にXだけに情報インフラを依存することの脆さ」を広く印象づけました。
NERVはその後、自社の防災アプリや、Mastodon等が対応する分散型プロトコル「ActivityPub」経由の配信併用を呼びかけています。

4. 自治体が見つけた、もっと安上がりな”地域の目”

個人的に今回のリサーチで一番「なるほど」と思ったのがこの話です。
2015年の自分は「緯度経度で範囲を切り取る」ことにこだわっていましたが、2026年の自治体はまったく違うアプローチで「地域限定の投稿」を集めています。独自ハッシュタグです。

長野県は2019年の台風19号で甚大な被害を受けた際、公式Xアカウント「長野県防災」で「#台風19号長野県被害を付けて投稿してください」と呼びかけました。「#救助」のような汎用タグではなく、災害名と地域名を含む長めの独自タグにすることで他地域の投稿やノイズを排除し、県内の被害情報だけを一元的に集約。16名の職員体制で緊急度の高い投稿には個別に返信し、結果として約50件の救助につながったといいます。

埼玉県和光市も同様に「#和光市災害」というハッシュタグを運用基準として定め、道路の冠水や倒木などの被害情報を住民から集めています。ただし長野県のような手厚い体制は取れないため、「原則個別返信はしない」「緊急時は119番へ」と役割をあらかじめ割り切っているのが特徴です。

geocode検索が緯度経度という「厳密だが取得コストの高い」情報に依存していたのに対し、ハッシュタグは「曖昧だがタダで、しかも投稿者が能動的に地域を宣言してくれる」情報です。API課金を気にする必要もありません。2026年の「地域限定ツイートを抜き出す」の正解は、技術的な検索演算子ではなく、こうした運用上の工夫にあったわけです。

5. Blueskyなら?――位置情報レキシコンはまだ道半ば

ではX一強でなくなったこの時代、乗り換え先の分散型SNS「Bluesky」(AT Protocol)なら位置情報検索ができるのか調べてみましたが、2026年現在、標準の投稿スキーマには緯度経度を格納する領域自体がなく、ネイティブな位置情報検索はまだ存在しません。
「AT Protocol Community Fund」の支援でcommunity.lexicon.locationという位置情報用のレキシコン(緯度経度・住所・Foursquareスポット等を表現する仕様)の策定が進んでいますが、標準クライアントへの実装はこれからのようです。2015年当時のTwitterのように「無料でgeocode検索できるSNS」が新たに現れるとしたら、この標準化の先にあるのかもしれません。

6. まとめ

2015年の記事を読み返すと、「1週間分のツイートを2地点分、無料でサクッと集めて地図にプロットする」という行為自体が、実はかなり贅沢な遊びだったんだなと感じます。
API無料開放・ジオタグ標準搭載という条件が重なっていた、ごく短い時期だからこそ成立していた個人の”データ遊び”でした。

11年経って、その遊びは個人の手から離れ、有料APIの世界(企業・研究機関向け)と、無料だが運用の工夫で成り立つ世界(自治体のハッシュタグ運用)の2つに分かれていったように見えます。どちらも2015年の自分が想像していなかった方向です。
「特定地域の投稿を抜き出す」というテーマそのものは今も十分にホットですが、そこに個人ブロガーとして無料でアクセスできる入口は、11年前よりずっと狭くなってしまいました。次に地域別のSNS分析をやるとしたら、緯度経度ではなく、うちのブログ用の独自ハッシュタグでも用意するところから始めることになりそうです。