「花火大会のツイートをベイジアンフィルタで分類する」を11年後にやり直したら、花火大会もSNSも様変わりしていた話

2015年に、花火大会のツイートをベイジアンフィルタで分類するという記事を書きました。

題材は「神奈川新聞花火大会」のツイート。「行きたい」「告知」「会場到着」「感想」「混雑」「今日花火大会なの?」の6つに、ナイーブベイズで振り分けるという実験でした。教師データは各カテゴリー10件ほど。結果は「到着」と「感想」はそこそこ、「混雑」は地名に引きずられて失敗、というほろ苦いものでした。

あれから11年。同じことをやり直そうとして、最初の一歩で転びました。

  • 題材の「神奈川新聞花火大会」が、もう存在しない
  • ツイートが、もう気軽には集められない

というわけで今回は、この2つの「変わってしまったこと」を調べるところから始めます。調査にはNotebookLMのDeep Researchを使い、数値は一次資料で裏取りしました。

1. 11年で、花火大会に何が起きたのか

1-1. 神奈川新聞花火大会は、2016年に休止した

前回の記事で分析した神奈川新聞花火大会は、2016年8月2日の第31回大会を最後に休止しています(神奈川新聞社の社告)。理由は、みなとみらい21地区の再開発で有料客席を設営できる大きな空き区画が減ったこと、そして観客が路上にあふれて緊急車両の通行に支障が出るなど、制約が増えたことでした。

つまり私が前回ツイートを分類したのは、休止の1年前の大会だったことになります。その後、2018年に「みなとみらいスマートフェスティバル」として花火大会が復活しました。

年 出来事
1986年 山下公園海上で神奈川新聞花火大会が始まる
1995年 会場をみなとみらい地区に移す
2015年 8月4日に第30回大会。前回記事の分析対象
2016年 8月2日の第31回大会を最後に休止。再開発による空き区画の減少と、安全面・交通面の制約が理由
2018年 「みなとみらいスマートフェスティバル」として花火大会が復活
2025年 8月4日の大会で、日本丸メモリアルパーク全域が初めて有料観覧エリアに。同日、打ち上げ用の台船で火災が発生し、花火は途中で中止

2025年の大会では、日本丸メモリアルパークの全域が初めて有料エリアになりました。入場には「安全対策協力金」3,500円が必要で、当日券はなし。大さん橋の屋上も同じ仕組みです。入場券という名前ではなく「安全対策協力金」という名前になっているところに、混雑と警備のコストを誰が負担するのか、という今の花火大会の悩みが出ています。

なお同日の19時50分ごろ、打ち上げ用の台船で火災が起き、予定の約2万発のうち花火は途中で中止になりました(神奈川新聞)。

【図1】花火大会の今と昔(NotebookLMで作成したイラスト)

有料席の二極化とみなとみらいの花火大会の変遷をまとめたイラスト

1-2. 有料席は「二極化」している

帝国データバンクの調査(2026年7月発表、動員10万人以上の106大会が対象)によると、有料席を導入している大会は84大会、約8割です。そのうち45大会が2026年に値上げしました。

項目 2025年 2026年 増減
一般席(最安値)の平均価格 5,286円 5,517円 +231円(+4.4%)
プレミアム席(最高値)の平均価格 37,804円 40,611円 +2,807円(+7.4%)
一般席とプレミアム席の価格差 7.15倍 7.36倍 過去最大
値上げした大会数 42大会 45大会 +3大会
有料席を導入した大会数 84大会 84大会 変化なし

2023年からの4年間で、一般席は約16%、プレミアム席は約23%上がっています。プレミアム席の平均が4万円を超えたのは、今回の集計で初めてです(帝国データバンク)。上の表はNotebookLMのデータテーブル機能で作り、私が確認した数値と一致していることを確かめてから載せています。

【図2】有料席の平均価格(帝国データバンク調査より)

一般席とプレミアム席の平均価格の2025年と2026年の比較グラフ

1-3. インバウンド、オーバーツーリズム、そして地元との摩擦

ここは、言い切れることと言い切れないことを分けて書きます。

言い切れること。長岡まつり大花火大会は全席有料の抽選制で、外国人向けの英語の販売ページが用意されています。旅行会社が「日本の花火大会を楽しむ方法」を外国人向けに案内するなど、花火大会が旅行の目的になっているのは確かです。

言い切れないこと。「プレミアム席はインバウンド客向け」という説明はNotebookLMのレポートにも出てきましたが、花火大会の来場者のうち外国人が何割か、という統計は今回の調査では見つけられませんでした。なので「外国人が増えたから値上がりした」とは書きません。高額席が増えている事実と、花火が旅行コンテンツになっている事実が並んでいる、というところまでです。

はっきり見えるのは、混雑と安全対策、地元との摩擦です。

  • びわ湖大花火大会は、高さ約4m・総延長約2kmの目隠しフェンスを設置し、2023年に地元自治会が開催反対の書面決議をして大きな話題になりました。主催者は、道路への人の滞留や民家への不法侵入を防ぎ、救急車の通行ルートを確保するためと説明しています。総経費は約3億円で、収入のおよそ8割がチケット代だそうです。
  • ふるさと納税の返礼品としての「花火大会チケット」は、さとふるの発表で2024年の寄付件数が前年の約1.9倍になりました。
  • 帝国データバンクの調査では、2026年は主要106大会のうち5大会が中止(未定を含む)になっています。

花火は、無料で気軽に見るものから、費用を払って安全に見るものに変わってきました。前回の「混雑」カテゴリーに入っていたような、駅前の人混みへの愚痴も、今では「有料席を買うか、買わないか」という悩みとセットで語られているはずです。そこで今回は、分類カテゴリーに「有料席・価格」を足してみることにしました。

2. ツイートはもう集められない。Xの次はどこへ?

前回は、無料のTwitter APIで花火大会のツイートを集めて分類しました。2026年の今、同じ手順は個人ではほぼ再現できません。2023年のAPI有料化以降、読み取りは従量課金が基本で、研究者向けの枠も高額化したと報じられています。

実は今回、代わりにBluesky(公開されている検索API)で投稿を集められないか試しました。結果は「403 Forbidden」。実際に自分でアクセスして、断られました。SNSの投稿は、誰でも拾える公共のデータではなくなってきています。

利用者の側でも、花火大会の「語られ方」は変わっているようです。Xは今も日本で利用率の高いSNSですが、花火のような「見た目」が主役の話題は、写真と動画が中心のInstagramやTikTokで共有される流れが強く、文章中心の場としてはThreadsやBlueskyといった受け皿も現れました。ただしこれは各種の利用状況調査と、NotebookLMが集めた記事からの印象で、投稿そのものを数えたわけではありません。

ちなみに前回の記事では、Xの投稿を言葉の統計として扱えました。今回の制約は、実験そのものの前提を変えます。そこで方針を変えました。

3. 実験:自作の模擬投稿でベイジアンフィルタを再現する

お断り。以下の実験で使う投稿は、すべて私が新しく書いた架空の文章です。実在の投稿ではありません。ですので、ここに出てくる正解率は「私が書いた文章に対する数字」で、実際のSNSでそのまま通用するものではありません。「教師データを増やすと、どんな変化が起きるか」を観察するための実験だと思ってください。

3-1. 条件

  • カテゴリーは8つ:前回の6つ(行きたい/告知/会場到着/感想/混雑/今日花火大会なの?)に、今回「有料席・価格」と「その他」を追加
  • 各カテゴリーに、教師データ候補16件とテスト用8件(合計:教師128件、テスト64件)
  • 日本語の形態素解析にfugashi(UniDic)、分類にscikit-learnのナイーブベイズ(ラプラス平滑化)
  • 教師データの数を2・5・10・16件と変え、200回ランダムに抽出し直して平均を取る

ナイーブベイズのしくみは前回と同じです。「このカテゴリーなら、この単語はこのくらい出てくる」という確率を教師データから学び、新しい投稿に含まれる単語の確率を掛け合わせて、一番もっともらしいカテゴリーを選びます。11年たっても数式は何も変わっていません。

3-2. 結果:教師データを増やせば賢くなるが、頭打ちが早い

【図3】教師データの数と正解率

教師データ数と正解率の関係を示す折れ線グラフ

2件だと正解率は約51%、5件で約61%、10件で約69%、16件で約73%(64件中47件)でした。当てずっぽう(12.5%)よりはるかに良い一方で、10件から16件への伸びは小さくなっています。前回の「各10件」という設定は、この実験でも「そこそこ」の水準でした。

3-3. 結果:当てやすい投稿と、当てにくい投稿

【図4】カテゴリー別の正答率

カテゴリー別の正答率を教師データ10件と16件で比較した横棒グラフ

見えてきたことが3つあります。

  1. 「今日花火大会なの?」は10件でも満点。前回は、このカテゴリーに「花火大会の感想」まで吸い込まれて判定が難しかったのですが、今回は「浴衣」「今日」「?」といった独特の語彙が揃っていたため完璧でした。ただし、これは私が「今日」「浴衣」を入れて書いたからでもあります。実際の投稿ではもっと苦戦するはずです。
  2. 「感想」と「有料席・価格」は50%どまり。感想は「綺麗」「感激」「素晴らしい」「圧巻」と、人によって使う言葉がばらばらで、16件程度では語彙を覚えきれません。有料席・価格のほうは、「年々上がってる」「庶民が見にくくなった」のように、肝心の「有料」「円」といった単語を使わない不満が分類に失敗しました。ツイートに限らず、遠回しな表現はナイーブベイズが苦手とするところです。
  3. 「その他」は、むしろ足を引っ張った。前回の私は「傾向が遠いものを分類する『その他』を作れば、もう少し良い結果になりそう」と書いていました。ところが今回、「その他」を除いた7カテゴリーで同じ実験(教師10件)をすると正解率は約74%で、「その他」を入れた8カテゴリーの約69%より高くなりました。「その他」の正答率は25〜31%で、ほとんど当たっていません。

11年前の予想は、外れていたことになります。理由を考えてみると、「その他」は「どんな単語でも出てくる」カテゴリーなので、特徴的な単語が存在せず、「その他」と言い切る根拠が確率にならないのだと思います。「花火とは無関係な投稿は、無関係だと判断すること」は、単語の出現確率だけを見るナイーブベイズにはもともと難しい仕事なのでしょう。

3-4. 間違え方にも癖があった

16件で学習したときの誤分類は17件ありました。そのうち8件が「行きたい」に分類されています。「いやあ素晴らしい花火だった」「写真では伝わらない迫力、見てよかった」は本当は「感想」ですが、「行きたい」になりました。「映画を観に行ってきた、面白かった」という花火と無関係の投稿まで「行きたい」です。

どうやら「行く」「見る」といった一般的な言葉が、「行きたい」カテゴリーにたくさん含まれているため、学習していない単語(知らない言葉)が出てきたときの最後の拠り所になっているようです。未知語は計算から無視されるので、残った一般語で決まってしまうのでしょう。前回、地名に引きずられて「混雑」を誤分類したのとよく似た失敗です。

4. まとめ

  • 神奈川新聞花火大会は2016年に休止し、2018年にみなとみらいスマートフェスティバルとして復活した。2025年には会場全域が有料になるなど、花火大会は「見る」ものから、安全や運営のコストを払って「参加する」ものに変わりつつある。
  • 有料席は84大会に広がり、一般席とプレミアム席の価格差は過去最大の7.36倍。ただしインバウンドの実数は今回確認できず、因果は言い切れない。
  • Xの投稿を気軽に集められなくなったため、今回は模擬投稿でベイジアンフィルタを再現した。教師データを増やすと約51%(2件)から約73%(16件)まで上がるが、頭打ちは早い。
  • 前回の予想に反して、「その他」カテゴリーは正解率を下げた。

前回の私は「言葉と統計学を合わせないといけないので、計量テキスト分析は大変ですね」と締めました。2026年の感想は少し違います。11年前と変わらないのは、ナイーブベイズの数式と、文章の「遠回しさ」に弱いという点でした。変わったのは、花火大会そのものと、その言葉を集められる場所のほうです。

次に同じ実験をするなら、教師データなしで文章を分類できるAIに任せて、ナイーブベイズと勝負させてみたいと思います。ただし、肝心の投稿を集める手段がまだ見つかっていません。

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