静止気象衛星5機で海の温度を一周させてみた ― 全球の海面水温と、温暖化との関係

前回のGOES衛星でエルニーニョを確認した記事の最後に、「GOESは地球の半分弱しか見えないので、これは全球ではありません」と書きました。気になったので、続きをやってみました。日本のひまわり9号、米国のGOES、欧州のMeteosatの静止気象衛星を全部つないで、海の温度の地図を一周させます。

ただし、海の温度を見ただけでは「温暖化している」とは言えません。後半では、IPCC・気象庁・欧州コペルニクス気候変動サービスなどの資料を使って、温暖化と海水温上昇の関係を整理し、この1枚の絵がその中のどこに位置づくのかを考えます。

1. 5機で地球を一周した海面水温

2026年9月20〜30日(UTC)の11日間、3時間おきの海面水温を画素ごとに平均して、モルワイデ図法の1枚にしました。暖かいほど赤、冷たいほど青です。白い所は、陸と、期間中ずっと雲に覆われて水温が得られなかった海です。

【図1】静止気象衛星5機による全球の海面水温(2026年9月20〜30日の11日平均)

ひまわり9号・GOES-18/19・Meteosat2機の海面水温の11日平均(2026年9月20〜30日)。モルワイデ図法。暖かいほど赤く、白い所は陸と、期間中ずっと雲に覆われていた海。南北60度より高緯度は静止衛星から見えない。

モルワイデ図法は面積の比が正しく保たれる図法なので、「どの海がどれだけ広いか」を歪めずに見られます。虹色は使わず、青→淡い色→橙→赤の順で、明るさの順序が読める配色にしました。

なお、地図の上下が切れているのは正しい挙動です。静止衛星は赤道の真上から見ているので、南北60度より高緯度は見えません。つまり「完全な全球」ではなく「南北60度の帯の全経度」です。

2. 「3機」ではなく「5機」必要だった

静止気象衛星は赤道上空約36,000kmの一点に留まり、地球の約1/3を見ています。ひまわり・GOES・Meteosatの3つの系統があれば一周できそうですが、海面水温では5機必要でした(表1)。

【表1】海面水温の全球合成に使った静止気象衛星5機

衛星 運用 定点 見ている海
ひまわり9号 日本(気象庁) 東経140.7度 西太平洋・東アジア・豪州
GOES-18(West) 米国(NOAA) 西経137度 中部・東部太平洋
GOES-19(East) 米国(NOAA) 西経75.2度 南北アメリカ・大西洋西部
Meteosat(0度) 欧州(EUMETSAT) 経度0度 大西洋東部・アフリカ・欧州
Meteosat(インド洋) 欧州(EUMETSAT) インド洋上 インド洋・アラビア海

0度のMeteosatが配る海面水温は東経60度まで、ひまわりは東経80度からで、アラビア海〜ベンガル湾の20度ぶんが空いてしまうのです。雲の画像なら3系統で足りるのに、水温のデータは配布の段階で地域ごとに切られていて、その切れ目がインド洋で噛み合いませんでした。そこで、欧州がインド洋上に置いているもう1機を足して埋めています。

3. 1枚の観測は雲だらけ、だから11日分重ねる

赤外線で海面を見る以上、雲があると水温は得られません。そこで1機あたり88時刻、5機で440ファイル(約12GB)を取得し、品質の良い画素だけを画素ごとに平均しました。4回未満しか水温が得られなかった画素は出していません。雲の切れ間を1回拾っただけの値は、11日間を代表しないからです。

その結果、静止衛星が見る南北60度の帯の61.5%が埋まりました。衛星の水温画像は「撮ったら写っている」ものではなく、雲の切れ間を何時間分もつなぎ合わせて、ようやく1枚になります。

4. 図から直接読めること:暖水の順序が逆転している

図から読める数字を2つだけ挙げます(表2)。

【表2】2026年9月下旬の赤道太平洋2領域の海面水温(11日平均)

領域 範囲 11日平均の海面水温
西太平洋の暖水プール 5°S–5°N、130°E–160°E 29.2℃
Niño 3.4 領域(赤道中央部) 5°S–5°N、170°W–120°W 30.1℃

普段の赤道太平洋は、貿易風が暖かい表層水を西へ押し流すので、インドネシア付近の暖水プールがいちばん暖かく、東へ行くほど冷たくなります。ところがこの図では、中央部のほうが暖水プールより約0.9℃暖かい。順序が逆転しています。エルニーニョ時の特徴と整合する並びです。

ただし、これは「エルニーニョの強さ」を示す数字ではありません。公式のNiño 3.4指数は平年との差で定義されていて、今回の図は水温そのものです。熱帯は平年でも赤く出ます。平年との差で見たエルニーニョは、前回の記事を見てください。

5. 夏と冬を並べる:9月下旬と1月上旬

同じ手順で、2026年1月1〜10日(UTC)の10日間の海面水温も作りました。北半球でいえば、9月下旬が晩夏から初秋、1月上旬が冬にあたります(南半球では季節が逆です)。まず1月の図です。色の目盛りは9月の図と同じです。

【図2】静止気象衛星5機による全球の海面水温(2026年1月1〜10日の10日平均)

静止気象衛星による海面水温の10日平均(2026年1月1〜10日)。モルワイデ図法。暖かいほど赤く、白い所は陸と、期間中ずっと雲に覆われていた海。9月の図と同じ色の目盛り。

9月の図(図1)と見比べると、色の分布がはっきり違います。北半球の中高緯度は、9月に橙〜淡い色だった所が1月には青みが強くなり、北太平洋や北大西洋の北側、オホーツク海周辺は濃い青です。逆に南半球は、南米やアフリカ、豪州の南の海が、9月の青から1月は淡い色〜橙へ変わっています。

差を直接見るために、両方の時期で水温が得られた画素だけを取り出し、9月から1月を引きました。

【図3】海面水温の差(2026年9月下旬 − 1月上旬)

2026年9月20〜30日の海面水温から2026年1月1〜10日の海面水温を引いた差。赤は9月のほうが暖かく、青は1月のほうが暖かい。北半球の中高緯度が赤、南半球の中高緯度が青で、赤道付近は差が小さい。

赤(9月のほうが暖かい)は北半球の中高緯度、青(1月のほうが暖かい)は南半球の中高緯度に広がり、赤道付近は差が小さい、という南北で対称な絵になりました。北半球では日本の東の海、地中海、オホーツク海周辺で差が大きく、色の上限(+10℃)に達する所もあります(縁海は水が少なく、季節による変化が大きくなりやすいためです)。

緯度ごとの平均で見たのが次の図4と表3です。

【図4】緯度ごとの海面水温の帯状平均(2026年9月下旬と1月上旬)

緯度4度ごとの海面水温の帯状平均。2026年9月下旬(赤)と1月上旬(青)の2本の線。北緯20〜50度で9月が大きく上回り、南緯20〜60度では1月が上回る。赤道付近は近い値。

【表3】緯度帯ごとの海面水温の平均と季節差(両時期で値のある画素の平均)

緯度帯 1月上旬 9月下旬 差(9月−1月)
北緯40〜60度 8.4℃ 17.2℃ +8.8℃
北緯20〜40度 21.3℃ 26.9℃ +5.5℃
北緯0〜20度 27.3℃ 29.3℃ +2.0℃
南緯0〜20度 27.1℃ 26.5℃ −0.6℃
南緯20〜40度 23.0℃ 18.8℃ −4.2℃
南緯40〜60度 12.6℃ 9.1℃ −3.6℃

季節による差は、赤道では1〜2℃以下ですが、中緯度では4〜5℃を超え、北緯40〜60度では約9℃に達します。同じ海面水温でも、熱帯は一年中ほぼ暖かく、中高緯度は季節で大きく揺れることが、衛星の絵から数字で読めます。

面白いのは、半球ごとに分けると北半球は平均で+3.9℃、南半球は−2.6℃と大きく動くのに、南北60度の帯全体の面積平均では+0.3℃しか変わらないことです(両時期で値のある画素の平均)。南北の季節が逆なので、足すとほぼ相殺されます。「世界の平均海面水温」という数字が1年を通じてあまり暴れないのは、このためだと考えられます。

赤道太平洋は、1月と9月でどう違うか

第4章と同じ領域を1月でも計算しました(表4)。

【表4】赤道太平洋2領域の海面水温:1月上旬と9月下旬の比較

領域 1月上旬(10日平均) 9月下旬(11日平均)
西太平洋の暖水プール 30.4℃ 29.2℃
Niño 3.4 領域(赤道中央部) 26.1℃ 30.1℃

1月は暖水プール(30.4℃)のほうが中央部(26.1℃)より約4℃暖かく、普段どおりの「西が暖かく、東へ下がる」並びです。9月は中央部が30.1℃まで上がって、暖水プールを上回りました。中央部は1月から9月で約4℃上昇しています。

ただし、ここは読み方に注意が必要です。この4℃には、季節による変化と、エルニーニョの発達の両方が含まれていて、2つの図だけでは切り分けられません。切り分けるには、平年(季節ごとの平均)との差で見る必要があります。1月の暖水プールは、雲が居座って値が得られた画素が約67%と、9月(約89%)より少ない点も割り引いてください。

6. 温暖化と海水温上昇の関係

ここからが、画像の「裏付け」にあたる部分です。先に言っておくと、11日間の水温の地図1枚で温暖化は示せません。温暖化は長い期間の変化で、この図は一瞬の断面です。そこで、公的機関の資料で確認できることを整理しました。

海は、温暖化で余ったエネルギーの大部分を受け止めている

IPCC第6次評価報告書(AR6)の第1作業部会によると、気候システムに蓄積した過剰なエネルギーの9割以上が海洋に蓄えられています。大気が暖まる量より、海が暖まる量のほうがはるかに大きいということです。2026年1月に学術誌 Advances in Atmospheric Sciences に掲載された国際共同研究(31機関・50人超)では、2025年に海洋(上層2,000m)が吸収した熱は23ゼタジュールで、観測が始まって以来最大、海洋の熱量の記録更新は9年連続とされています。

海面水温も長期的に上がっている

気象庁によると、世界の海面水温の平均は100年あたり0.63℃の割合で上昇しています(1891〜2025年の線形トレンド)。2025年の年平均は1991〜2020年平均より+0.34℃で、1891年以降で3番目に高い値でした。気象庁はIPCC AR6の「人間の影響が大気・海洋・陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」という評価を引いています。

2026年8月は、海面水温が過去最高になった

欧州のコペルニクス気候変動サービス(C3S)は、2026年8月の極域を除く海洋(南緯60度〜北緯60度)の平均海面水温が21.07℃で、8月としては過去最高だったと発表しました(従来の8月の記録は2023年の20.98℃)。2024年3月と並んで、全月を通じた最高値でもあります。日別でも、極域を除く海洋で21.11℃という過去最高が記録されました。

ここで面白いのは、C3Sが集計する南北60度の範囲が、今回の静止衛星の視野とほぼ同じことです。今回の図は、その「過去最高の海」を衛星から眺めた絵だと言えます。確認できた資料を表5にまとめます。

【表5】海の温暖化について、公的機関の資料で確認できた内容

出典 確認できた内容
IPCC AR6 WG1 気候システムに蓄積した過剰エネルギーの9割以上が海洋に蓄えられている
気象庁 世界の海面水温は100年あたり0.63℃上昇(1891〜2025年)。2025年は+0.34℃で歴代3位
Advances in Atmospheric Sciences(2026年1月) 2025年の海洋(上層2,000m)の吸熱は23ゼタジュールで観測史上最大
Copernicus C3S(2026年9月10日) 2026年8月の南北60度平均海面水温は21.07℃で8月の最高、日別最高は21.11℃

海が暖まると、何が起きているのか

NotebookLMのDeep Research(51件の情報源)で「海水温上昇の影響」を調べ、数字は一次資料で確認し直しました。

  • 日本近海は世界平均の2倍以上のペースで上昇しています。気象庁によると、日本近海の海面水温は100年あたり+1.36℃(1900〜2025年)で、世界平均の+0.63℃を大きく上回ります。黒潮の変動や太平洋十年規模振動といった自然変動も含まれていますが、日本の気温上昇(+1.44℃/100年)とほぼ同じ速さです。
  • サンゴの大規模白化。NOAAによると、2023年初頭から2025年半ばにかけての第4次世界規模サンゴ白化現象では、世界のサンゴ礁の84%が白化レベルの熱ストレスを受け、少なくとも83の国と地域で大規模白化が確認されました。過去最大だった第3次(2014〜2017年)の68.2%を上回る、観測史上最大の規模です。

ちなみにNotebookLMのレポートには、日本近海の上昇率が「+1.33℃」、白化は「82の国と地域」、現象は「現在進行中」と書かれていましたが、いずれも古い版の数字や状況でした。最新の一次資料では、上の数字(+1.36℃、83の国と地域)で、NOAAはこの現象が2025年半ばに終息したとみています。生成AIのレポートは、数字を必ず元の資料で確かめる必要があります。

温暖化とエルニーニョは別物で、重なっている

混同しやすいので整理します。温暖化は100年で0.6℃という、ゆっくりした底上げです。エルニーニョは数年おきに起きる自然の変動で、1年のうちに数℃動きます。2026年は後者が強く出ている年で、C3Sも8月の高水温の背景として熱帯太平洋のエルニーニョを挙げています。一方で、2025年の年平均が過去3番目に高かったのは、エルニーニョ(2024年)からラニーニャへ移る年に、それでも上位に入ったという意味です。

つまり、海は「長期の底上げ」の上に「エルニーニョの波」が乗っている状態です。今年の記録的な水温のうち、どれだけが温暖化でどれだけがエルニーニョかは、この資料だけでは切り分けられません。ここは断定しないでおきます。

7. 技術メモ:KD木をやめたら39倍速くなった

エンジニア向けの余談です。この図を作る一番の難所は、データの量でした。使ったのは、自作の衛星データ処理ライブラリTeraPyです(サポートが終了したSystem600のPython置き換え)。今回、全球の海面水温に対応する機能を追加しました。

衛星データを地図に載せ直す(再投影する)標準的な方法は、入力の全画素の緯度経度からKD木を作り、出力画素ごとに最も近い入力画素を探すというものです。ところが今回の入力は、全球を0.02度刻みで覆う格子で、1枚で1億6,200万画素あります。処理時間とメモリの比較が表6です。

【表6】全球格子1枚の再投影:KD木と今回の方法の処理時間・メモリ

手法 1枚あたりの時間 必要メモリ
KD木(標準的な方法) 106.5秒 9.91GB
今回作った方法 2.7秒 1.99GB

作業マシンの空きメモリは8GBなので、KD木では1枚も処理できません。そこで、等間隔の格子なら、出力画素の緯度経度から入力の何行目・何列目かが割り算で出ることを使い、探索自体をやめました。同じ入力・同じ出力格子でKD木と1画素ずつ突き合わせたところ、両方で値がある7,765画素はすべて完全一致でした。ただし、これは格子状に整理されたデータに限った話で、衛星の生データには使えません。

汎用のアルゴリズムは強力ですが、データの形が分かっているなら、その形を使ったほうが速い。今回はそれだけの話でした。

8. この記事で分かったこと、分からないこと

  • 分かったこと:静止気象衛星は、ひまわり9号・GOES-18/19・Meteosat2機の計5機で、南北60度の帯の全経度をつなげられる。11日平均で赤道中央部(30.1℃)が暖水プール(29.2℃)より暖かく、普段と順序が逆転していた。1月上旬と9月下旬を並べると、中高緯度は季節で南北が逆に大きく揺れ(北緯40〜60度で約+9℃、南緯20〜40度で約−4℃)、南北60度の面積平均では+0.3℃しか変わらなかった。公的機関の資料では、海は温暖化の熱の大部分を吸収し、海面水温は長期的に上昇し、2026年8月は過去最高になった。
  • 分からないこと:この図は11日平均の水温そのもので、平年との差ではない。1月と9月の差には、季節変化とエルニーニョの発達が混ざっていて、切り分けていない(1月は10日平均、期間も長さも異なる)。温暖化そのものはこの図からは示せない。ひまわり・GOESはNOAA、Meteosatは欧州のEUMETSATが水温を算出していて、算出方法が違う。機の間で値がどれだけ揃っているかは測っていない(見たかぎり継ぎ目は目立たないが、一致したとは言えない)。また、系統差の補正はしていないので、他の解析値との比較や精度の話はしない。衛星が測るのは海面のごく薄い膜の温度(皮膚温)で、ブイや船が測る水深数mの水温とは厳密には別物。
  • やっていないこと:水温の算出はNOAAとEUMETSATが行っていて、TeraPyはそれを読み込んで投影・貼り合わせしている。平年との差の全球版も、期間中の変化の追跡もしていない。

次は、平年との差を全球で描いて、エルニーニョだけでなく「底上げ」のほうも見えるようにしたいところです。

出典