全国の駅名で最も多く使われている漢字は?を11年後に数え直してみた(2026年リブート版)

11年前、わが家の夕食のお供だったクイズ番組「ネプリーグ」に、こんな問題が出ました。

「首都圏で『谷』がつく駅名、10個答えよ」

渋谷、市ヶ谷、四ツ谷、鶯谷、西谷……意外と思い出せないものです。そこから「日本の駅名で一番多く使われている漢字って何だろう?」と気になり、2015年にこの記事を書きました。結論は「田」。農耕民族の血脈を感じる、あまりにもありきたりな結果でした。

あれから11年。新幹線は延び、ローカル線は消え、「高輪ゲートウェイ」のような駅名まで現れました。2026年のデータで数え直したら、答えは変わっているのでしょうか?

駅名標を模したイラスト。1位田650駅、2位川502駅、3位大494駅、4位前479駅、5位山467駅

1. 使用するデータ

前回は「駅データ.jp」のCSVを使いましたが、現在は会員登録(一部は有料)が必要なため、今回は誰でも入手できる公的オープンデータに切り替えました。

国土数値情報の鉄道データは、「300m以内にある同じ名称の駅」を1つのグループとして扱います。乗換駅で複数の路線・事業者のホームが別レコードになっていても、1駅として数えられるわけです。この方法で数えると、全国の駅は9,048駅。前回の9,560駅からは約5%減りました。ただし集計方法が違うため、この差を「駅が減った」とそのまま読むことはできません(後述)。

2. 駅名で最も多く使われている漢字

前回と同じく、同じ漢字が1つの駅名に複数あっても「1つ」と数えました。「田」を含む駅名が何駅あるか、という数え方です。

駅名に使われる漢字ベスト20の横棒グラフ。田650、川502、大494、前479、山467の順
【図1】駅名に使われる漢字ベスト20(2024年末、9,048駅)

結論から言うと、1位は変わらず「田」(650駅)。上位5位の顔ぶれと並びも、2015年とまったく同じでした。

 
 
順位 漢字 2015年(駅データ.jp) 2026年(国土数値情報)
1位 田 684 650
2位 川 521 502
3位 大 508 494
4位 前 491 479
5位 山 474 467
 
 

5つとも件数が2〜5%ほど減っていますが、これは漢字の人気が落ちたのではなく、集計単位の違い(全体で約5%減)とほぼ同じ割合です。上位の顔ぶれを動かすほどの変化は起きていません。地名は何十年も、何百年も変わらないので、当たり前といえば当たり前です。

6位以下には「野」(386)、「町」(379)、「西」(317)、「新」(308)、「中」(292)と続きます。「川」「山」「野」「原」「島」「津」「井」と、地形を表す字がずらりと並んでいるのが特徴です。

東西南北では「西」が最多

おまけに、方角の漢字も数えてみました。

東西南北の漢字を含む駅の数。西317、東290、南195、北191
【図2】方角の漢字を含む駅の数

「西」317、「東」290、「南」195、「北」191。東より西のほうが多く、南北は拮抗しています。「西」には「西谷」のような地名由来のほか、「○○西口」「○○西」のように、既存の駅の位置関係を示す命名が多いのかもしれません。この点は今回のデータだけでは確かめられないので、あくまで推測です。

3. 駅数と人口・面積

前回は「駅数と人口には強い相関がある」「面積が広ければ駅も多いという仮説は成り立たない」と、グラフの見た目で判断しました。今回は相関係数を計算します。駅の位置から都道府県を割り当て、47都道府県の駅数を数えました。

都道府県別の駅数と人口(左、r=0.90)、駅数と面積(右、r=0.24)の散布図
【図3】都道府県別の駅数と人口(左)・面積(右)
  • 駅数と人口:相関係数 r = 0.90(r² = 0.81)。回帰直線の傾きは、人口100万人あたり約41駅
  • 駅数と面積:相関係数 r = 0.24(r² = 0.055)

相関が有意かどうかは、過去記事と同様に「r² > 4/(n+2)」の簡便法(日本OR学会)で見ます。n=47なら基準は約0.082。人口はこれを大きく上回りますが、面積(0.055)は下回ります。11年前に「見た目」で書いた結論は、数字で確かめても同じでした。駅数を決めているのは広さではなく、人口です。

面積の相関が出ない理由は、右のグラフを見れば一目瞭然です。面積が桁違いに大きい北海道と、面積が小さいのに駅だらけの東京・大阪・愛知が、相関を打ち消しています。

「1駅あたり何人?」で見ると

人口で割ると、別の顔が見えてきます。

  • 人口10万人あたりの駅数が最多なのは高知県の26.0駅(167駅、1駅あたり約3,800人)。次いで富山県19.8駅、福井県17.7駅、秋田県16.3駅
  • 最少は沖縄県の1.3駅(19駅。鉄道は沖縄都市モノレール「ゆいレール」のみ)。次いで埼玉県3.1駅、神奈川県3.8駅
  • 東京都は657駅で全国最多ですが、人口10万人あたりでは4.6駅(1駅あたり約2.2万人)。駅が多いのではなく、人が多いのです

面積あたりの駅密度は、東京都が100km²あたり29.9駅、大阪府25.7駅に対して、北海道は0.5駅です。同じ「駅が多い」でも、中身はまったく違います。

4. 地図にプロットする

前回はQGISの練習も兼ねて地図にプロットしました。今回は国土数値情報の位置データを使い、Pythonで作図しています。前回の「田」「桜」に加えて、冒頭のクイズの「谷」も描きました。

「田」「桜」「谷」がつく駅の分布図。田は650駅、桜は40駅、谷は159駅
【図4】「田」「桜」「谷」がつく駅の分布
  • 「田」(650駅):関東、東海、近畿、北部九州に密集。前回の予想「新潟・秋田などの米どころに多いのでは」は外れで、全国にばらけています
  • 「桜」(40駅):前回は41駅、今回は40駅。やはり南半分と都市部に多めです
  • 「谷」(159駅):関東に濃く集中しています。東京都25駅、埼玉県13駅、神奈川県12駅、千葉県8駅で、首都圏だけで58駅。「10個答えよ」は、知っていれば難しくない問題でした

東京都の「谷」を含む駅名を挙げると、渋谷、世田谷、日比谷、鶯谷、茗荷谷、阿佐ヶ谷、市ヶ谷、千駄ヶ谷、雑司が谷、幡ヶ谷、四ツ谷、糀谷、入谷、祖師ヶ谷大蔵、神谷町……と、これだけで確かに10個を超えます。(都電雑司ヶ谷と東京メトロの雑司が谷のように、表記の違う駅は別々に数えています。)

地図の落とし穴:駅が多い場所に点が多いのは当たり前

ここで、前回の私が見落としていたことに気づきました。どの漢字の地図を描いても、駅そのものが多い場所に点が集まるので、「田」の地図は「駅の分布図」とほぼ同じ形になってしまいます。「田は関東に多い」と言っても、それは関東に駅が多いだけかもしれません。

そこで、各県の駅のうち「田」がつく駅の割合を計算しました(全国平均は7.2%)。

都道府県別の「田」がつく駅の割合。和歌山県12.5%、福島県11.8%が高く、鳥取県1.4%、北海道1.6%が低い
【図5】県内の駅に占める「田」がつく駅の割合(上位8県と下位5県)

割合で見ると、様相が変わります。

  • 最も高いのは和歌山県の12.5%(15/120駅)。次いで福島県11.8%、島根県11.7%、長野県10.6%、秋田県10.4%
  • 前回「多そう」と予想した秋田県は10.4%で5位、新潟県は9.1%と、確かに平均を上回りました。地図の見た目では分からなかったことです
  • 一方で、米どころの富山県は4.1%、石川県も4.1%と平均を大きく下回っています
  • 最低は鳥取県1.4%、北海道1.6%。北海道は426駅もあるのに「田」はわずか7駅。明治以降に開拓された土地で、地名の付き方が本州とは違うことが影響していそうです

なお、小規模な県は分母が小さく(鳥取は73駅中1駅)、1駅の違いで割合が大きく動きます。順位の細かな差は、あまり気にしすぎないほうがよさそうです。

5. 2026年ならではの駅名の変化

11年前に気づかなかったことがもう一つあります。漢字ではない駅名が、少しずつ増えていることです。

  • ひらがな・カタカナを含む駅名は564駅(全体の6.2%。「ヶ」「ケ」は除く)
  • すべて仮名の駅名は62駅(「すすきの」「つくば」「みなとみらい」「ハウステンボス」など)
  • 漢字1文字の駅名は86駅(「桜」「渚」「泊」「蕨」など)
  • 駅名の長さは、2文字が43.8%で最多、3文字以下で73%を占める

象徴的なのが、2020年開業の「高輪ゲートウェイ」です。駅名の公募では130位だった名称が選ばれ、賛否を呼びました。2024年3月16日に北陸新幹線の金沢―敦賀間が開業して新設された6駅にも、漢字とひらがなが混ざった「越前たけふ」があります。

とはいえ、データ全体で見れば、こうした「新しい駅名」はまだごく少数です。圧倒的多数は、田・川・大・前・山といった、何百年も前からある地名に由来する漢字のままです。

6. 前回との比較、そして自省

2015年の私は「駅名で最も多く使われている漢字は田」と結論し、「カーネル密度推定を勉強しないと……」と締めくくりました。今回、11年越しに確かめてわかったことをまとめます。

  • 上位の顔ぶれは11年たっても変わらない。「田・川・大・前・山」の並びも同じ
  • 駅数と人口の相関は強く(r=0.90)、面積との相関は有意ではない(r²=0.055)。前回の「見た目の結論」は数字でも裏づけられた
  • 地図で「田は全国にばらけている」と見えたのは、実は駅の多い場所に点が集まるという当たり前の現象だった。割合で見ると、和歌山・福島・島根・長野・秋田が上位で、北海道や鳥取は「田」が極端に少ない
  • 「米どころ=田の駅が多い」とは限らない。秋田・新潟は平均を上回るが、富山・石川は下回る

反省点は、前回と今回でデータの出所と数え方が違うことです。前回は駅データ.jpの9,560駅、今回は国土数値情報から「300m以内の同名駅を集約」した9,048駅。このため、北海道が591→426駅、東京都が744→657駅になったように見える数字は、駅の増減ではなく、集計方法の違いが主因の可能性が高いと考えています。(実際、この間にはJR北海道の留萌本線や根室本線の一部の廃止といった変化もありますが、今回の2024年末時点のデータには、それらすべてが反映されているわけではありません。)同じ条件で11年間の増減を比べるには、2015年当時の国土数値情報(鉄道データは過去分も公開されています)で同じ手順で数え直すのが正解でしょう。これは次の宿題にします。

もう一つ、前回の「ありきたり」という感想は、今回は少し違って見えます。「田」の駅が多いのは、日本人が米を作ってきたから……と言いたくなりますが、地名の「田」は「前田」「山田」のように人名・屋敷名に由来するものも多く、「新田」は開墾地を表します。水田そのものを示す駅名ばかりではありません。駅名の漢字は、地名の積み重ねの写しであって、農耕の証拠としては少し弱い。11年前の「農耕民族の血脈」という締めは、ちょっと大げさだったかもしれません。

ちなみに、冒頭の「谷」の問題は、今回のデータでは首都圏58駅から選べば答えられます。次にネプリーグで駅名クイズが出たら、「田」「川」「谷」のような地形の漢字を頭に入れておくと、意外と役に立つかもしれません。

参考・出典

※集計は「その漢字を含む駅名の駅数」。都道府県の割り当ては、駅の位置と都道府県境界ポリゴンの重なりによる(海岸付近の一部は最寄りの県に割り当て)。人口・面積はWikipediaに掲載された値を使用。