2026年9月、気象庁は「エルニーニョ現象は冬にかけて続く」と発表しました。WMO(世界気象機関)は「ほぼ100%の可能性で2027年2月まで続く」とし、国連事務総長は「エルニーニョが目の前で巨大化している」と警告しています。
ニュースでは連日そう報じられていますが、正直なところ、ぼくには「海の水温が+3℃」と言われてもピンときません。それなら自分で見てみよう、というのが今回の出発点です。フューチャーベースの衛星データ処理システムTeraPyで、米国の静止気象衛星GOESの海面水温を読み込み、地図にしてみました。
1. 衛星から見た海の温度
使ったのは、NOAAが公開しているGOES-18(西経137°の真上)とGOES-19(西経75°の真上)の海面水温プロダクト(ACSPO ABI L2 SST)です。2026年9月23〜29日の1週間ぶんを処理しました。
まずは水温そのものを地図にしたのが下の図です。暖かいほど赤、黒は「雲などで水温が得られなかった海」、灰色は陸地です。
【図1】GOES-18/19 海面水温の7日平均(2026年9月23〜29日)

注意点がひとつ。GOESは2機で東経150°〜西経5°付近しか見えないので、これは「全球」ではありません。地球の半分弱、太平洋からアメリカ大陸、大西洋にかけての範囲です。
1枚の観測は雲だらけ、だから7日平均する
赤外線で海面を見る以上、雲があれば水温は得られません。ある1時刻(9月29日12:00 UTC)だけを切り出すと、こうなります。
【図2】ある1時刻の海面水温(2026年9月29日12UTC)

黒い部分が海の約7割を占めています。そこで、2時間おきの観測から品質の良い画素だけを7日間平均して、雲で欠けた所を他の時刻の観測で埋めました。7日平均では黒い部分は約5%まで減ります。
2. 「水温」ではなく「平年との差」で描く
ただ、水温そのものの図ではエルニーニョは見えません。海の水温は緯度だけで30℃以上変わるので、+3℃の異常は埋もれてしまうからです。そこで、NOAAのOISSTによる1991〜2020年の平年値を引いた「平年との差(偏差)」に描き直します。
【図3】海面水温の平年との差(2026年9月23〜29日)

赤=平年より暖かい、青=冷たい、です。見どころは3つあります。
- 赤道に沿った濃い赤の帯。日付変更線付近から南米沿岸まで、平年より3〜5℃高い海水が伸びています。東へ行くほど濃く、ペルー・エクアドル沖の一部は色の上限(+5℃)を超えて飽和していました。
- その南北の青みがかった領域。特に赤道の南の太平洋は平年より冷たく、暖水が赤道に集まった、エルニーニョらしい配置です。
- 黒い枠は「Niño 3.4」。エルニーニョ監視に世界共通で使われる領域(赤道の南北5°、西経170°〜120°)です。
北東太平洋(北米西岸沖)にも赤い領域がありますが、この図だけでは理由は分かりません。「そういう領域も見える」までにしておきます。
3. 1年前と並べてみる
同じ手順・同じ色で、1年前(2025年9月23〜29日)と並べました。上が2025年、下が2026年です。
【図4】2025年と2026年の同じ週の比較

上段の赤道沿いは、弱い青の筋(平年よりやや冷たい)。下段の同じ場所は濃い赤。地図と色が同じなので、色の違いがそのまま1年間の変化量です。
| 項目 | 2025年9月23〜29日 | 2026年9月23〜29日 |
|---|---|---|
| Niño 3.4の週平均偏差(GOES、補正後) | −0.4℃ | +3.1℃ |
| 同(NOAA OISST) | −0.5℃ | +3.0℃ |
| Niño 3.4の平均水温(GOES、補正後) | 26.3℃ | 29.8℃ |
1年で約3.5℃、Niño 3.4の偏差が動きました。補正前のGOESの値でも約4℃動いています。
数字を読むときの注意
- GOESの水温は、暖かい水ほどNOAAの解析値より高く出る傾向がありました(29〜31℃で約+0.55℃)。そのまま平年値と引くとNiño 3.4が+3.8℃と過大になるため、水温帯ごとの差を引く補正をしています。補正後にOISSTと合うのは、合うように補正したからで、「公式値と一致したので検証済み」とは言えません。独立に言えるのは、補正前でも1年で+4℃動いていること、GOES-WestとEastの重なり域の食い違いが小さいこと(平均0.1℃)です。
- GOESが測るのは海面の薄い膜の温度(皮膚温)で、解析値は水深数mのバルク水温に近く、性質が違います。
- これは1週間の平均です。エルニーニョの「経過」を示す図ではありません。
4. 世の中の数字と照らし合わせる
自分の計算が報道と同水準か、一次資料と突き合わせておきます。
| 機関 | 内容 |
|---|---|
| WMO(2026年9月3日) | Niño 3.4指数は7月に+2.0℃、8月中旬に+2.2〜2.6℃、エルニーニョは2027年2月までほぼ100%続く見通し |
| 気象庁 エルニーニョ監視速報No.408(9月9日) | 8月の監視海域の水温は基準値より+3.4℃で、8月として1949年以降最高だった1997年の+3.0℃を上回った、冬にかけてさらに拡大し、1997年12月の+3.6℃に匹敵する見込み |
| NOAA(ウェザーニュース経由) | 北半球の秋〜冬に「非常に強い」エルニーニョに発達する確率は90%以上、8月の世界平均気温偏差は+1.32℃で、8月の観測史上1位 |
なお、気象庁の「監視海域」はNiño 3.4ではなく、NINO.3(赤道の南北5°、西経150°〜90°)なので、数字を横並びに比べてはいけません。それでも、GOESで見えた赤道東部の濃い赤(西経120°〜80°の赤道帯で+3.7〜+4.0℃)は、気象庁の+3.4℃と整合的です。
5. 今年の異常気象はどこまでエルニーニョのせいか
ここからが本題の後半です。NotebookLMのDeep Research(33件の情報源)で今年の異常気象を調べ、数字はあらためて個別に裏取りしました。ちなみにNotebookLMのレポートには、実際とは異なる数字(インドのモンスーン降水量が半減、など)が混ざっていたので、以下は一次報道・公的機関の発表で確認できたものに絞っています。
日本:猛暑は「エルニーニョのせい」ではなかった
エルニーニョ発生時の日本の夏は、統計的には西日本で低温になりやすいとされます。ところが2026年夏(6〜8月)の平均気温は平年差+1.02℃で歴代5位、40℃以上の「酷暑日」はのべ36地点と過去最多でした。7月中旬〜下旬の西日本の平均気温は、1946年の統計開始以来の最高でした。
気象庁はこの高温の要因として、偏西風の北偏とチベット高気圧の強まりを挙げており、エルニーニョは説明の中心ではありません。極端気象アトリビューションセンターの分析では、7月中下旬の高温は地球温暖化がなければほぼ起こり得ず(確率約0.006%)、2026年の条件では約37年に1度(約2.7%)まで上がっていたとされています。つまり日本の猛暑は、エルニーニョよりも温暖化の寄与で説明されている、というのが公的機関の見立てです。
海外:すでに出ている影響と、これから予測される影響
| 地域 | 状況 | 区分 |
|---|---|---|
| インド | 6月1日〜9月23日の累積降水量は長期平均比15%減、ブルームバーグは2009年以来の少雨のモンスーンと報道 | 観測 |
| パナマ運河 | 今年度の累積降雨量は34%減、流入量は44%減、9月からパナマックス閘門の1日の通航枠が25、15日以降は23に削減 | 観測 |
| 地球全体の海面水温 | 8月の世界の海面水温偏差は+1.08℃で観測史上最高 | 観測 |
| インドネシア・豪州・南部アフリカ | 干ばつ・森林火災のリスク上昇(WMO) | 予測 |
| ペルー沿岸・エクアドル・米国南部・東アフリカ | 豪雨・洪水のリスク上昇 | 予測 |
| 食料 | WMO・国連は、約4,900万人が新たに深刻な飢餓に直面しうると警告 | 予測 |
農作物や食品価格への影響についても、米、コーヒー、カカオ、パーム油などが警戒されており、東南アジアの主要輸出国ではコメ価格が年初から約15%上昇したとも報じられています。ただし、これらの価格変動をエルニーニョ単独の結果とするのは難しく、現時点では「警戒されている」段階です。
「サイコロに重りをつける」
NOAAの専門家がよく使う言い方に、エルニーニョは「サイコロを振る」のではなく「サイコロに重りをつける」ものだ、というものがあります。特定の天候の起こりやすさを変えるだけで、個別の豪雨や猛暑をエルニーニョが直接引き起こしたとは言えない、という意味です。WMOも、エルニーニョの強さだけでは個別地域の被害の深刻さは決まらないと注意を促しています。
6. この記事で分かったこと、分からないこと
- 分かったこと:GOESの海面水温でも、赤道東部〜中部の3〜5℃の暖水の帯がはっきり見えた。Niño 3.4は1年前の約−0.4℃から約+3.1℃へ動いた。
- 分からないこと:この図は1週間の断面にすぎず、エルニーニョの経過や、日本を含む世界の天候への影響そのものは検証していない。北東太平洋の赤い領域の理由も不明。
- 気づいたこと:「今年の異常気象はエルニーニョのせい」と言いたくなるが、少なくとも日本の猛暑は、公的機関の分析では温暖化の寄与が主役だった。海面水温の異常と、個々の異常気象の原因は、慎重に切り分けて読む必要がある。
エルニーニョは冬にかけてさらに強まる見通しです。来月以降、また同じ手順で撮り直して、赤い帯がどう育つか確かめてみようと思います。
出典
- NOAA ACSPO ABI L2 SST(GOES-18/19、AWS公開バケット)/ NOAA OISST v2.1
- WMO:El Niño set to become very strong(2026年9月)
- UN News:El Niño is surging
- 気象庁:エルニーニョ監視速報
- tenki.jp:エルニーニョ現象は冬にかけて続く
- ウェザーニュース:8月の世界の気温は過去最高
- 気象庁:2026年7月中旬〜下旬の顕著な高温と今後の見通し
- nippon.com:2026年夏の平均気温、歴代5位
- Bloomberg:インドのモンスーン
- DTN:Panama Canal Authority Adopts New Transit Restrictions
- WRI:2026 Super El Niño Impacts, Explained

