これは外せない!富士山鳥瞰図

富士山の鳥瞰図を作った。Sentinel-2の観測データを国土地理院の標高データに貼り付けて、斜め上から眺めた一枚である。

最初は「きれいな絵ができたな」で終わるつもりだった。ところが手元には10mメッシュの標高データがそのまま残っている。せっかくなので測ってみたら、宝永火口も、大沢崩れも、側火山の並びも、数字のほうから勝手に出てきてしまった。これは外せない。

Sentinel-2と国土地理院DEMで作成した富士山の鳥瞰図。山梨県側(北)から南を向いた視点で、手前に河口湖・山中湖、中央に冠雪した富士山が見える
【図1】山梨県側(北)から見た富士山(2026年1月のSentinel-2 L2A合成 × 国土地理院10mメッシュ標高)

まず、この絵は「写真」ではない

先に断っておくと、これは衛星が斜めから撮った写真ではない。

Sentinel-2は欧州コペルニクス計画の地球観測衛星で、可視光から短波長赤外まで13バンドのマルチスペクトル画像を、バンドごとに10m・20m・60mの分解能、観測幅290kmで取得する(ESA)。撮っているのは真下向きの画像だ。

今回やったのは、

  1. 富士山を囲むbbox(東経138.456〜138.900、北緯35.146〜35.590)にかかるMGRSタイル4枚分のSentinel-2 L2Aを、AWSの公開バケットからダウンロード
  2. SCL(シーン分類レイヤ)で雲・雲影をマスクし、1か月分を中央値合成して雲のない1枚を作る
  3. 同じ範囲の国土地理院・標高タイル(基盤地図情報数値標高モデル、10mメッシュ)をDEMとして取得
  4. matplotlibのmplot3dで、DEMのメッシュに合成画像を色として貼り、カメラを傾ける

つまり「真上から撮った色」を「別に測った高さ」の上に載せ直している。レイトレースでもCGでもなく、素朴なメッシュ描画だ。

カメラの向きは2種類用意した。北側(山梨県側)から南を向く図1と、南側(静岡県側)から北を向く図2である。

静岡県側(南)から北を向いた富士山の鳥瞰図。手前に富士市・富士宮市の市街地、山の向こう側に富士五湖が小さく見える
【図2】静岡県側(南)から見た富士山(同じ2026年1月の合成)

同じデータ、同じ標高、カメラの方位角を180度変えただけで、印象はずいぶん違う。山梨県側からだと手前に富士五湖が並び、静岡県側からだと富士市・富士宮市の市街地が手前に来て、湖は山の向こうに回り込む。「富士山の顔」が一つではないことが、視点を振るだけで分かる。

夏の富士山は、きれいに撮れない

同じパイプラインで2026年8月も作ってみた。

2026年8月のSentinel-2合成による夏の富士山鳥瞰図。積雪がほぼ消え、赤茶けた山肌が露出している
【図3】夏の富士山(2026年8月、山梨県側)。積雪が消え、赤茶けた山肌が出る

絵としては面白いのだが、データの質でいうと夏は明らかに分が悪い。雲マスク後の有効画素率が、1月・2月はどちらも100%だったのに対し、8月は92.7%しかなかった。ひと月分をまとめても山頂付近の雲が抜けきらない。夏の富士山には、ほぼ毎日のように対流雲がかかるからだ。

静岡県側から見た夏の図では、山頂の南斜面に不自然な色ムラとギザついた面が残っている。中央値合成でも取りきれなかった残雲である。「夏の富士山の衛星画像が意外と出回っていない」のには、ちゃんと理由があった。

ここからが本題:富士山は、どれくらい円錐なのか

ここまでは絵の話だ。ここからは数字の話をする。

富士山といえば端正な円錐形、という共通認識がある。だが「どれくらい円錐なのか」を数字で言った文章を、筆者は読んだことがなかった。手元には10mメッシュのDEMがある。測ればいい。

まずDEMの最高点は3,772.8mだった。剣ヶ峰の三角点は3,776.12mなので、3.3mほど低く出ている。10m四方の平均標高を格子に持つモデルなので、尖った山頂はどうしても削れる。以下の議論はすべてこの「10mメッシュから見た富士山」の話である。

次に、1度刻みで360方向に放射状の測線を引き、10mおきに標高を読んで断面を作った。それが図4だ。

富士山を360方向に切った地形断面の重ね描き。ほとんどの方向がほぼ同じ直線に重なり、南東方向だけが途中で登り返し、西方向だけが大きく低い
【図4】360方向の地形断面。細線が個々の方向、破線が平均断面の直線近似

結果はこうなった。

  • 軸から1〜8kmの区間で、平均断面は平均斜度16.2度の直線にr²=0.945で乗る
  • 360方向を1本ずつ直線近似しても、r²は最小0.915・中央値0.940・最大0.979。どの方向から切っても、例外なく直線に近い

「富士山は円錐に見える」は、感想ではなく測定結果だった。しかもこれは「だいたい円錐」ではなく、360方向の全部が全部そうだ、という意味での円錐である。

ただし、円錐の軸は山頂にない

ひとつ、思わぬ副産物があった。最初、放射状の測線の中心を最高点(剣ヶ峰)に置いていたのだが、そうすると「東が高く西が低い」という強い偏りが出る。おかしい。

そこで、中心を50m刻みで動かしながら「回転対称と仮定したときの残差RMS」が最小になる点を探した。答えは剣ヶ峰から東北東(方位57.5度)へ652mずれた場所で、残差RMSは181mから104mまで落ちた。

言われてみれば当たり前で、剣ヶ峰は山頂火口の西南西の縁にある一点にすぎない。山体としての円錐の軸は火口のほう、つまり最高点より少し東北東にある。「日本一高い場所」と「富士山という円錐の中心」は、652m離れている。以降の解析はすべて、この当てはめた軸を中心にしている。

円錐からのズレを見ると、火山の履歴が出てくる

ここまでで「回転対称な円錐モデル」が手に入った。軸からの距離だけで標高が決まる、理想化された富士山である。実際の地形からこれを引き算すれば、「富士山が円錐でないところ」だけが残る。

富士山の地形と回転対称な円錐モデルとの標高差を示した平面図。北西から南東にかけて赤い(高い)帯が走り、それと直交する北東・南西が青い(低い)
【図5】円錐モデルとの標高差。赤いほど「円錐より盛り上がっている」、青いほど「削れている」

ひと目でわかる。北西から南東へ、赤い帯が一本走っている。

もう少し機械的にやってみる。360方向それぞれについて、軸から1〜6kmの間で「本来ずっと下りのはずの断面が、上りに転じた量」を積算した。斜面の途中に膨らみがあれば、ここに引っかかる。

方位別の登り返し量を示した極座標グラフ。南東方向と北西方向の2か所だけが突出している
【図6】方位別の「登り返し量」。20mを超えるのは360方向中10方向だけ

20mを超えたのは360方向のうちわずか10方向。そのうち9方向が南東(方位144〜152度)、残る1方向が北西(方位316度)だった。ほぼ正反対の2方向である。

南東側で最も盛り上がっているのは、軸から2.8km、標高2,685mの地点。これは宝永山(公式標高2,693m)だ。その手前が宝永第一火口で、図4のオレンジの線が2.5〜3.2kmあたりで一度平らになり、わずかに登り返しているのがそれにあたる。

そして北西側。ここには富士山の北西山腹の側火山群がある。

地形データだけから、応力場が出てきた

ここで答え合わせをした。

富士山の側火山(寄生火山)は70以上あり、北西-南東方向に偏って分布することが知られている。理由は富士山周辺の応力場で、フィリピン海プレートに押された伊豆半島が本州を押し続けているため、地殻には北西-南東方向の割れ目ができやすい。マグマはその割れ目を伝って上がるので、側火山も北西-南東に並ぶ(国土交通省中部地方整備局富士砂防事務所)。1707年の宝永噴火が南東山腹で起きたのも、この並びの上での出来事だ。

つまり図5と図6が拾った「北西と南東の2方向」は、富士山の下にかかっている力の向きそのものだった。こちらがやったのは、標高の数字を方位ごとに引き算して積算しただけである。火山学の知識は一切入れていない。それでも、プレートの押し合いが地形に刻んだ痕が出てきた。

ついでに、逆向きの異常もある。西(方位264度)は平均から約150m低く、360方向で最も深く抉れている。大沢崩れだ。こちらは噴火ではなく侵食が作った溝で、同じ「円錐からのズレ」でも成因が逆になる。図5で、北西-南東の赤い帯の脇から西へ伸びる青い筋がそれである。

宝永火口から、いまの備えへ

南東の登り返しを作った宝永噴火は、1707年12月16日に始まった。気象庁の資料では、マグマ噴出量0.7 DRE km³、噴火規模はVEI 5。南東山腹に火口が開き、火山灰は江戸にも多量に降った(気象庁)。

これが有史以降で最後の大規模噴火である。現在の噴火警戒レベルは1(活火山であることに留意)で、特段の警戒事項は出ていない。ただし「300年以上静かだから安全」でも「そろそろ危ない」でもない。歴史上の事実と、いまの観測状況と、行政の備えは、それぞれ別の話として読む必要がある。

その「備え」のほうは、ここ数年でかなり具体的になった。内閣府は2025年3月、富士山の大規模噴火をモデルに「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」を公表している。降灰量に応じて被害の様相を4段階に区分したものだ。

ステージ 降灰量 被害の様相 住民等の基本的な行動
ステージ1 微量〜3cm 鉄道・航空機等の運行停止、物資供給に支障 噴火直後は自宅や堅牢な建物に退避、以降は自宅等で生活を継続
ステージ2 3〜30cm(被害が比較的小さい) 道路通行・物資供給が困難、ライフラインへの影響は小 自宅等で生活を継続
ステージ3 3〜30cm(被害が比較的大きい) 道路通行・物資供給が困難、ライフライン影響大で長期化 自宅等で生活を継続(状況に応じ生活可能な地域へ移動)
ステージ4 30cm以上/降灰後土石流が想定される範囲 降雨時に木造家屋が倒壊する可能性 原則避難

出典:内閣府(防災担当)「首都圏における広域降灰対策ガイドライン(概要)」令和7年3月

目を引くのは基本方針だ。「できる限り降灰域内に留まって自宅等で生活を継続する」。首都圏の人口規模を考えれば、全員を域外に逃がすという選択肢は現実には取れない。だから「逃げる」ではなく「留まって持ちこたえる」を前提に置く。降灰はそれが成立する程度には直接の致死性が低い災害だ、という判断でもある。

鳥瞰図で見た裾野の広さは、ふだんは「雄大な景色」として消費される。だが同じ広さが、火山灰が届く範囲の広さでもある。

もう一方の裾野:登る人の数

火山としての富士山を測ったので、観光地としての富士山も数字で見ておきたい。

環境省は2005年から、4つの登山道の八合目付近に赤外線カウンターを置いて登山者数を数えている。過去10年分がこれだ。

2016年から2025年までの富士山の登山者数をルート別に積み上げた棒グラフ。2020年はコロナで閉山、2024年に山梨県、2025年に静岡県が規制を開始
【図7】富士山の登山者数(八合目通過者)の推移

2025年は4ルート合計で205,100人。前年比100.4%、コロナ前の2019年比では87.0%だった。2024年に山梨県が、2025年に静岡県が入山規制を始めているが、総数はほとんど動いていない

ただしルート別に見ると事情が違う。吉田ルートは2019年比80.7%まで落ちた一方、富士宮ルートは103.5%とコロナ前を超えている。吉田ルートが全体に占める割合は、2019年の63.6%から2025年は59.0%に下がった。規制の強い山梨県側から、静岡県側へ人がいくらか流れた形である。

2026年シーズン(7月1日〜9月10日)のルールは、両県で以下のようになっている。

項目山梨県(吉田ルート)静岡県(富士宮・御殿場・須走)入山料1人1回4,000円1人1回4,000円1日の人数上限4,000人設定なし夜間の通行14時〜翌3時は五合目ゲート閉鎖(山小屋宿泊者を除く)14時〜翌3時の入山は山小屋予約者のみ事前手続き通行予約システムで予約・決済事前登録と事前学習(eラーニング)装備確認防寒具・上下セパレート式雨具・登山靴をゲートで確認事前学習の修了が必須

出典:山梨県「令和8年度の富士登山」、静岡県「各3登山口における登山規制の実施」

「富士山のルール」と一括りにされがちだが、両県で中身は同じではない。人数上限があるのは山梨県側だけだ。

遭難の数字は、素直に動いた

では規制に意味はあったのか。登山者数はあまり減っていない。だが遭難のほうは、はっきり動いた。

富士山の遭難者数と登山者1万人あたりの遭難者数。2023年97人、2024年83人、2025年49人と推移している
【図8】富士山の遭難者数(警察庁)と、登山者1万人あたりに直した概算値

警察庁の山岳遭難統計によると、富士山の遭難者は2023年97人、2024年83人、2025年49人。2025年は過去5年平均(54.4人)を9.9%下回った。前年比では41%減である。

面白いのは2024年だ。山梨県が規制を始めた年なのに、この年の83人は過去5年平均(51人)を62%上回っている。規制初年度は、むしろ遭難が平年より多かった。減ったのは、静岡県側も規制に加わった2025年になってからだ。

登山者1万人あたりに直すと、4.38人(2023年)→4.06人(2024年)→2.39人(2025年)。2025年に一段下がったのがわかる。

ただし、この割り算は正確ではない。分子の警察庁統計は暦年(1〜12月)で、冬季の閉山期に登って遭難した人も含む。分母の環境省統計は開山期間に八合目を通過した人だけだ。対象期間も対象者も一致していない。あくまで目安として見てほしい。

また、規制が原因で遭難が減ったと断定することもできない。天候も、山小屋の予約状況も、登山者の構成も年ごとに違う。言えるのは「静岡県も規制に加わった年に、遭難者数と遭難率が揃って下がった」という事実までである。

なお山梨県は、規制初年度の2024年について、吉田ルートの夜間登山者が708人(前年比95%減)、救急搬送が27件(同41%減)だったと報告している。弾丸登山という特定の行動については、数字がはっきり反応している。

まとめ:きれいな絵を、測ってみてよかった

この記事は、鳥瞰図が一枚できたところから始まった。そこで止めていたら「富士山はきれいですね」で終わっていたと思う。

実際には、同じデータを方位ごとに切って引き算しただけで、いくつも出てきた。

  • 360方向すべてが直線に近い(r²は最小でも0.915)という、円錐性の定量的な裏づけ
  • 円錐の軸が最高点から652mずれているという、言われれば当たり前だが自分では意識していなかった事実
  • 北西と南東という2方向の異常。それが側火山の配列と、そこにかかる応力の向きと一致したこと
  • 西に深く刻まれた大沢崩れ。同じ「ズレ」でも、噴火で盛るのと侵食で削るのは逆向きだということ

どれも新発見ではない。宝永火口も大沢崩れも側火山の並びも、とっくに知られている。それでも、自分の手元の数字が先行研究と噛み合った瞬間は素直に気持ちがいい。以前この連載で重力の穴(インド洋低ジオイド域)を扱ったときも、自前の計算で出た最深点が過去のモデルとほぼ一致して同じ気分になった。

そしてその「測る」という行為は、そのまま防災の話につながっている。南東の登り返しは1707年の噴火跡であり、その噴火をモデルに2025年の降灰対策ガイドラインが書かれ、その裾野に毎年20万人が登っている。地形も、歴史も、制度も、登山者も、全部が一枚の鳥瞰図の上に乗っている。

富士山の鳥瞰図。これは外せない。

データ・出典

※制度・統計はいずれも2026年9月時点。登山規制は毎年変わるため、登る前に必ず富士登山オフィシャルサイトで最新情報を確認してください。