KH Coderで文章のクラスター分析を行う(2026リブート版) ― メタルヒーロー17作とギャバン インフィニティを仕分けてみた

KH Coderで文章のクラスター分析 2026リブートのアイキャッチ

1.はじめに

・個人の考察になります。正確性については保証しかねます。
・特定の作品を誹謗中傷する意図はありません。
・2017年3月の記事「KH Coderで文章のクラスター分析を行う」の、9年7か月ぶりのリブート版です。

2017年の記事では、メタルヒーローシリーズのオープニング曲の歌詞17曲をKH Coderにかけて、クラスター分析で仕分けました。
今回も同じ17作品を同じ方法で仕分けて、2026年の方法とも比べます。
そして、2026年2月に始まった新番組『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』が、どのクラスターに入るかも見てみます。

2.2017年の記事のおさらい

2017年版の手順は、ざっくり次のとおりでした。

  • 歌詞17曲をテキストファイルにする(1曲が1文書)
  • 作品名は「番組」、肩書き(重甲など)は「所属」、ヒーロー名(ビーファイターなど)は「名称」に置き換える
  • 対応分析で、超人機メタルダーと特警ウインスペクターが外れ値になったので除外する(ウインスペクターは「MAY DAY」の繰り返しのせい)
  • 文書のクラスター分析を、Ward法とJaccard距離で行う。語の最小出現数は2
  • 併合水準のプロットを見て、7クラスターに決める

結果は、宇宙刑事シリーズ、レスキューポリスシリーズ、コメディ寄りのカブタックとロボタックが、それぞれきれいに分かれました。
「割と納得できる結果」というのが当時の結論です。

3.2026年、歌詞が使えない

同じことをやろうとして、最初につまずいたのが素材集めです。

歌詞の全文は、もう気軽には集められません。
歌詞サイトは自動での全文取得をはじいてきます。
2025年11月11日には、ドイツのミュンヘン地方裁判所が、ChatGPTが歌詞を記憶して出力したことを著作権侵害と判断しました(GEMA対OpenAI。控訴の見込み)。
歌詞の扱いは、9年前よりずっと慎重になっています。

一方、日本の著作権法30条の4(2018年改正、2019年1月1日施行)は、情報解析のように、作品を味わうことを目的としない利用を認めています。
解析すること自体より、元のテキストを手元に揃えて記事で見せることのほうが難しい、という状況です。

そこで今回は、素材を歌詞から日本語版Wikipediaの作品記事に替えました。
Wikipediaの文章はCC BY-SA 4.0で、出典を示せば使えます。
歌詞が「作品が自分をどう歌っているか」なら、Wikipediaは「作品が外からどう説明されているか」です。比べるものは変わりますが、作品の性格が出るという点は同じです。

4.KH Coderは「5」になっていた

道具のほうも変わっていました。
2026年8月19日に、KH Coder 5(KH Coder オフィシャルパッケージ Ver 5)が発売されています。KH Coderは今年で25周年です。

  • 「次に何をすればよいか」を示すサジェスト・パネル
  • 起動の高速化と64bit化
  • マウスで動かせる共起ネットワーク
  • 文書のMDS(多次元尺度構成法)。クラスター分析の結果と見比べられる

2017年に「本を読んで勉強しないと」と書いていた作業の一部を、ソフト側が案内してくれるようになりました。
無料のStarting Editionは今もありますが、旧Beta版がベースで、データ量や機能に制限があります。
分析がクラウドに出ず手元のPCで完結する点は、生成AIの時代になってむしろ売りになっています。

今回の分析は、KH Coderと同じ設定(Ward法、Jaccard距離、語の最小出現数2)をPython(fugashi + SciPy)で再現して行いました。2026年の方法と同じ条件で比べたかったからです。

【図1】2017年と2026年の手順の比較

2017年と2026年のクラスター分析の手順比較

5.データの準備

●素材

2017年版と同じメタルヒーロー17作(1982〜1998年)に、『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』(2026年)を足した18作品です。
各記事から、冒頭の説明文と「概要(特徴)」「あらすじ(ストーリー)」の節だけを使いました。キャスト・スタッフ・放送局一覧は使っていません。
取得日は2026年10月20日です。インフィニティの記事にはまだ「あらすじ」の節がなく、一番短い文書になりました。

【表1】分析に使った文書

放送年 作品 文字数(置換後) 語数
1982 宇宙刑事ギャバン 1,350 289
1983 宇宙刑事シャリバン 834 178
1984 宇宙刑事シャイダー 1,035 224
1985 巨獣特捜ジャスピオン 770 158
1986 時空戦士スピルバン 1,216 244
1987 超人機メタルダー 1,956 377
1988 世界忍者戦ジライヤ 726 140
1989 機動刑事ジバン 702 131
1990 特警ウインスペクター 953 188
1991 特救指令ソルブレイン 857 177
1992 特捜エクシードラフト 1,370 268
1993 特捜ロボ ジャンパーソン 1,124 247
1994 ブルースワット 1,092 240
1995 重甲ビーファイター 563 119
1996 ビーファイターカブト 565 114
1997 ビーロボカブタック 1,285 242
1998 テツワン探偵ロボタック 1,105 235
2026 超宇宙刑事ギャバン インフィニティ 545 85

語数は、名詞・動詞・形容詞・形状詞のうち、ストップワードを除いた延べ数です。

●文章の正規化

2017年版と同じく、作品名を「番組」、肩書きを「所属」、ヒーロー名を「名称」に置き換えました。
ただし今回は、自分の作品だけでなく、他の作品の名前も全部置き換えています。
Wikipediaの記事には「前作の〇〇」「次作の〇〇」という言及が多く、たとえばシャリバンの記事には「ギャバン」が5回出てきます。これを残すと、内容ではなく「お互いの名前を書いているか」で仲間分けされてしまいます。
「宇宙刑事シリーズ」「レスキューポリス」のようなシリーズ名も、答えを教えているのと同じなので伏せました。

6.2017年と同じ方法でやってみる

まずは2017年と同じ、語の有無(使われたか否か)+Jaccard距離+Ward法です。7クラスターで切りました。
答え合わせのため、ファンの間でまとめて語られる4つの括り(宇宙刑事3作、レスキューポリス3作、ビーファイター2作、ロボコメディ2作)から、「同じ組に入ってほしいペア」を8組作りました。

【図2】2017年と同じ方法による樹形図(デンドログラム)

Jaccard距離とWard法による17作品のデンドログラム

8組のうち、同じ組に入ったのは4組でした。
ギャバンとシャリバン、ビーファイター2作、カブタックとロボタック、ウインスペクターとソルブレイン。
シャイダーは宇宙刑事から離れてジャスピオン・スピルバンと組になり、エクシードラフトはロボコメディの側に入りました。

樹形図を眺めると、放送年の近い作品同士がくっついているのが分かります。1982-83、1984-86、1989-91…という具合です。
これは前後の作品が似ているからでもありますが、それだけではありません。KH Coderの「特徴語」にあたる、クラスターごとのJaccard係数の上位語を見てみます。

  • ビーファイター2作: 昆虫、ジャマール、インセクト、アーマー、次元
  • ジバン・ウインスペクター・ソルブレイン: 救う、捜査、命、刑事、逮捕、救助
  • エクシードラフト・カブタック・ロボタック: 燃える、関わる、述懐、述べる、翌年、監督

上の2つは作品の中身を表す語です。ところが3つ目は「監督が述懐している」「翌年の作品では」という、Wikipediaの制作裏話の書き方でまとまっています。
同じ時期の記事は同じ人たちが似た書き方で編集していることが多く、それが仲間分けに出てしまったと考えられます。
2017年の「MAY DAY」と同じ種類の落とし穴でした。

Jaccard距離は、語が「使われたか否か」だけを見ます。そのため、テーマと関係のない語が1つ共通するだけで、近いと判定されることがあります。KH Coderの解説ブログ(smalldata)でも、寿司ネタのアンケートで、「まぐろ」が1語共通するだけの2件が最も近いと判定される例が紹介されています。

7.2026年の方法: 文埋め込み

2026年らしい方法として、文埋め込みを使ってみました。
文章全体を、意味を表す数百次元のベクトルに変換するモデルです。今回は名古屋大学のグループが公開している日本語用の「Ruri v3」(cl-nagoya/ruri-v3-130m、512次元)を使い、手元のPCで計算しました。
Ruri v3は、文章の頭に用途を示す接頭辞を付けて使います。クラスタリングには「トピック: 」が推奨されているので、それに従いました。
語が一致するかどうかではなく、「意味が似ているか」で距離を測るのが特徴です。たとえば「逮捕」と「捜査」は別の語ですが、意味の上では近いものとして扱われます。

比較のため、その中間にあたる TF-IDF + Cosine距離(よく使われる語を軽く、珍しい語を重く数える方法)も計算しました。

【図3】文埋め込みによる樹形図

文埋め込みRuri v3とWard法による17作品のデンドログラム

ギャバンとシャリバン、レスキューポリス3作、ビーファイター2作が早い段階でまとまり、7クラスターで切ると宇宙刑事3作も同じ組に入りました。8組のうち7組です。
取りこぼしたのはカブタックとロボタックの1組だけでした。ロボタックは、切断線のすぐ外側でジャンパーソンと合流しています。どちらも「ロボットが主人公」の作品なので、これはこれで納得がいきます。

ただし、弱点もはっきり出ました。ギャバンからジバンまで、1980年代の「宇宙から来た敵と戦い、変身する」作品7つが、一つの大きな塊になっています。
意味で測ると、ジャンルとしての共通点が強く効き、細かい作品の違いが見えにくくなります。

ちなみに、最初は接頭辞を検索用の「検索文書: 」にしたまま計算してしまい、そのときは8組中6組でした(重甲ビーファイターがカブトではなくカブタックのほうに寄っていった)。ドキュメントを読み直して「トピック: 」に直したら、1組増えました。新しい道具でも、説明書を読まずに使うと性能は出ないようです。

8.3つの方法を比べる

【表2】既知のペア8組のうち、同じクラスターに入った数(7クラスター)

方法 同じ組に入ったペア 既知の括りに無いペア 10クラスターでのペア
Jaccard+Ward(2017年と同じ) 4 / 8 10 3 / 8
TF-IDF+Cosine+Ward 6 / 8 11 6 / 8
文埋め込み(Ruri v3)+Ward 7 / 8 21 7 / 8

「既知の括りに無いペア」は、同じ組に入ったが4つの括りには含まれないペアの数です。間違いとは限りません(ジバンとウインスペクターは、どちらも警察もので近いと言えます)。ただ、この数が大きいほど、組が大ざっぱになっています。

文埋め込みは見つけたペアが一番多い一方、7クラスターでは大きな塊を1つ作るぶん、余計なペアも多くなりました。
10クラスターまで細かく切ると、文埋め込みは7組を保ったまま余計なペアが4つまで減ります。TF-IDF+Cosineは6組で、余計なペアは2つ。2017年と同じJaccardは3組まで落ち、余計なペアは5つでした。
細かく切るなら文埋め込み、手堅さならTF-IDF。Jaccardは、今回の素材ではどちらにも及びませんでした。

【図4】併合水準のプロット

3つの方法の併合水準のプロット

2017年に7クラスターを選んだ根拠の、併合水準のプロットも描きました。
Jaccardは最初から高い位置にあり、ほぼ平らに上がっていきます。どこにも「切りどころ」が見えません。2017年の記事でも「あまり変化がありません」と書いていましたが、今回も同じでした。文書が短く、共通する語が少ないと、どの文書も同じくらい遠く見えるためです。
TF-IDFと文埋め込みは、どちらも3→2クラスターで大きく跳ねています。少なくとも3つの大きな塊があり、それ以上まとめると無理が出る、というサインです。

9.ギャバン インフィニティはどこに入るか

『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』は、2026年2月15日に始まりました。
スーパー戦隊シリーズの放送枠(テレビ朝日系、日曜9時30分)を引き継いだ、新シリーズ「PROJECT R.E.D.」の第1弾です。
1982年の『宇宙刑事ギャバン』の世界観を、ゼロから作り直した作品とされています。

東映の白倉伸一郎プロデューサーは、スーパー戦隊の休止について、こう語っています。

結局どんな変化球を投げたとしても、正統派に引き戻されるのであれば、その変化球自体にはあまり意味がないんじゃないか、と。(中略)制作者側が二次創作みたいなところから抜け出せないのであれば、それを打破するために一度休んでみるのもありなんじゃないかということになりました
(anan 2485号、2026年2月25日発売)

では、文章の上では、インフィニティは「宇宙刑事の続き」なのでしょうか。それとも新しい何かなのでしょうか。
作品名・ヒーロー名・シリーズ名を伏せたまま、17作との距離を測りました。

【図5】ギャバン インフィニティに近い作品(上位5作)

ギャバン インフィニティに近い作品の上位5作を3つの方法で比較

文埋め込みでは、近い順に宇宙刑事ギャバン、宇宙刑事シャリバン、宇宙刑事シャイダー。上位3作が、宇宙刑事3部作そのものでした。
名前を伏せても「宇宙の刑事が地球を守る」という話の骨格は残っていて、それを拾ったわけです。

一方、Jaccardで一番近いのはビーファイターカブトでした。共通する語を見ると、「毎週」「日曜」「系列」といった放送情報の定型語が大半で、内容の語は「次元」「コスモ」「平和」「力」くらいです。
ちなみに、PROJECT R.E.D.のR.E.D.は「Records of Extraordinary Dimensions(超次元英雄譚)」の略です。ビーファイターカブトにも「超次元昆虫伝説」という設定があります。
Jaccardは、新シリーズが大事にしている「次元」という語を、偶然ですが正しく拾っていたのかもしれません。

10.まとめ

9年ぶりに同じ作品群を仕分けて、分かったことを3つにまとめます。

  • 2017年の方法(Jaccard+Ward)は、今回の素材では既知のペアを半分しか拾えなかった。内容より「記事の書き方」や「放送情報の定型語」に引っ張られた
  • 文埋め込みは既知のペアを8組中7組拾い、名前を伏せてもインフィニティを宇宙刑事3部作の隣に置いた。ただし、ジャンルの大きな塊を作りがちで、粗く切ると余計なペアが増えた
  • 地味なTF-IDF+Cosineも6組を拾い、余計なペアが一番少なかった。2026年でも十分に戦える

反省点もあります。
文埋め込みのモデルは、学習の段階でWikipediaそのものを読んでいる可能性があります。名前を伏せても、残った固有の言い回しから作品を思い出しているだけかもしれません。
また、「正解のペア」はファンの間の括りを借りたもので、これ自体が一つの見方にすぎません。

2017年の記事は「100%の性能を引き出せるように勉強しないと」で終わっていました。
9年たって、道具はKH Coder 5になり、文埋め込みも手元のPCで動くようになりました。それでも、結果を見て「なぜこの2つがくっついたのか」を文章に戻って確かめる作業は、2017年とまったく同じでした。
「述懐」「翌年」で作品がまとまっているのを見つけて苦笑いする、あの作業です。
KH Coderが「統計と元テキストの文脈を軽快に行き来」を売りにしているのは、たぶんそういうことなんでしょうね。

参考・出典