客はホテルに何を求めているのか 2026

2014年に、こんな記事を書いていました。

客はホテルに何を求めているのか

じゃらんの口コミをスクレイピングしてデータベースに突っ込み、形態素解析で名詞だけ抜き出して出現頻度を数える。「湘南・鎌倉」のホテルと「沖縄本部・名護・国頭」のホテルを比べたら、前者は「駅」、後者は「海」「子供」がランクインして、それっぽい考察で締めくくっていました。

あれから12年。干支が一周してしまいました。せっかくなので、「客はホテルに何を求めているのか」がこの12年でどう変わったのか、NotebookLMのDeep Researchを使って調べ直してみることにします。

まず、インバウンドの規模がケタ違いになっていた

2014年の記事を書いていた頃、正直「訪日外国人」はまだそこまで意識していませんでした。データを見て、その認識の甘さを思い知らされました。

【表1】訪日外国人旅行者数の推移(2014年〜2025年)

訪日外国人旅行者数 主な出来事 2014年 1,341万人 この記事の元ネタ「客はホテルに何を求めているのか」執筆年 2015年 1,974万人 前年から大幅な増加(「爆買い」が流行語大賞に) 2016年 2,404万人 2,000万人を突破 2017年 2,869万人 堅調な伸びが継続 2018年 3,119万人 初の3,000万人台に到達 2019年 3,188万人 コロナ前ピーク(当時の過去最高) 2020年 412万人 新型コロナで前年比87%減 2021年 25万人 水際対策で過去最低水準 2022年 383万人 10月に個人旅行が解禁 2023年 2,507万人 急回復(2019年比21.4%減まで戻す) 2024年 3,687万人 2019年を上回り過去最高を更新 2025年 4,268万人 初の4,000万人突破、過去最高を再更新

出典: 観光庁・JNTO公表資料(NotebookLM Deep Researchによる集計)

【図1】訪日外国人旅行者数の推移グラフ(2014-2025、コロナ前後の谷と回復)

2014年の1,341万人から2025年の4,268万人へ、およそ3.2倍。2014年時点の自分は「湘南・鎌倉」と「沖縄」の口コミを比べて満足していましたが、いま同じことをやるなら国籍別に口コミを分けて分析しないと片手落ちになりそうです。

コロナ禍を挟んで、何が変わったか

表を見て一番衝撃的なのは、やっぱり2020年〜2022年の落ち込みです。2019年の3,188万人から2021年にはわずか25万人。128分の1です。ホテル業界にとっては存続そのものが懸かる3年間でした。

この間に起きた変化として、NotebookLMの調査でいくつか興味深い事実が出てきました。

  • 非接触チェックイン(アプリ・LINE・QRコード)が2020年に一気に広まった。APAホテルは2020年8月から、箱根湯本ホテルおかだは同年9月からLINEでの事前チェックインを導入。
  • コロナ禍で宿泊料金が下がったことで、皮肉にも「コストパフォーマンスの良さ」への評価が上がり、2021年のJ.D.パワー調査では宿泊客満足度そのものは向上していた。
  • 2023年以降は逆に、需要回復とインバウンドの急増、人件費・エネルギー価格の上昇で宿泊料金が過去最高を更新し続けている。2024年7-9月期のADR(客室単価)はコロナ前比較可能な12ブランド平均で15,537円、2021年(8,320円)の1.8倍。

料金が上がっているのに満足度はコロナ前より高い水準を維持している、というのが今回の調査で一番意外だったポイントです。朝食やスタッフ対応の質が、値上がり分を補って余りあるほど改善されているようです。

「客が求めるもの」は12年でどう変わったか

2014年の記事の頻出語は「部屋」「利用」「ホテル」「朝食」「駅」「海」「子供」「風呂」あたりでした。基本的な設備・立地・家族構成にまつわる、ごく素朴な言葉です。

2026年時点で新しく浮上してきた論点を、NotebookLMのDeep Researchで整理してもらいました。

【表2】ホテル選びで重視される観点の変化(2014年 vs 2026年)

観点 2014年 2026年
調査手法 自分でスクレイピング→形態素解析(bag-of-words)で名詞の頻度を数えるしかなかった 楽天トラベル・一休など、プラットフォーム側が生成AIでクチコミを要約・絞り込みしてくれる
頻出キーワード 部屋、朝食、駅(アクセス)、海、子供、風呂、フロント 清潔さ(評価項目として新設)、トコジラミ対策、多言語対応、アパートメントホテル
新たなリスク・要求 基本的な設備満足度が中心。単語頻度だけでは「良い/悪い」の感情まで区別できなかった インバウンド急増に伴うトコジラミ(ベッドバグ)対策が、口コミ評価を左右するリスクとして浮上
宿泊客の構成 訪日外国人1,341万人。国内客が主体という前提で分析していた 訪日外国人4,268万人(2025年)。
多様な国籍・文化背景を前提にした分析が必須に 検索・予約行動 利用者が個別の口コミを自分で読み、地域特性(湘南・鎌倉 vs 沖縄)に注目していた AIエージェントが検索から予約まで支援。
利用者はAI要約や絞り込み条件を使って判断する

特に面白かったのが「清潔さ」です。2014年の記事でも「風呂」は頻出語の上位でしたが、これは設備そのものへの言及でした。2025年11月、楽天トラベルはクチコミ機能を刷新し、評価項目に新たに「清潔さ」を追加。2026年からはAIによるクチコミ要約や絞り込み機能も順次導入するとのことです。「清潔かどうか」が個別の口コミの中の一単語ではなく、評価軸そのものに昇格したわけです。

もうひとつ、2014年には存在しなかった論点として「トコジラミ(ベッドバグ)」対策があります。インバウンド増加に伴うリスクとして、2026年の複数の記事で取り上げられていました。海外からの荷物や衣類に付着して持ち込まれるケースが多く、口コミサイトで一度「トコジラミが出た」と書かれると評価に大きく響くため、清掃業者向けの対策ガイドまで出ているほどです。12年前は考えもしなかった観点でした。

変わらなかったもの:朝食とお風呂

一方で、しぶとく残っているものもあります。J.D.パワーの調査によれば、「地域・地元の食材や特産品を使った朝食」の提供は、いまだに全部門で満足度を100ポイント以上引き上げる最重要ファクターです。「温泉・浴場施設」も、宿泊客が重視する項目として常に上位に入り続けています。

2014年の記事で「朝食」「風呂」が頻出語の上位に来ていたのは、決して偶然でも一時的な流行でもなく、12年経ってもホテル選びの本質を突いていた、ということになりそうです。

まとめ:調べる手段は激変したが、調べたい問いは変わらなかった

今回、あらためて実感したのは次の2点です。

ひとつは、「客が何を求めているか」を調べる手段の変化です。2014年の自分は、Pythonでスクレイピングして形態素解析器にかけて、名詞の頻度表をエクセルっぽく並べて満足していました。2026年のいま、同じ問いを調べようとすると、NotebookLMのDeep Researchが数十件のニュース・調査レポートを勝手に読み込んで要約し、楽天トラベルや一休といったOTA自体がAIでクチコミを要約してくれます。調べる側の労力は、12年で劇的に下がりました。

もうひとつは、「客が求めるもの」の本質があまり変わっていないという発見です。部屋、朝食、風呂、立地。これらは2014年も2026年も変わらず上位に来続けています。変わったのは、そこにインバウンド由来の新しい論点(清潔さの数値化、トコジラミ対策、多言語対応)が積み増しされたことと、その論点を見つけるための調査コストがほぼゼロになったことです。

2014年の自分に伝えられるとしたら、「12年後、ホテルの口コミは訪日外国人が主役になり、調査はAIがやってくれるようになるよ」と言っても、たぶん半分も信じてもらえない気がします。