Sentinel-2で見る日本の水瓶

2026年の夏、四国では「18年ぶり」という言葉が何度もニュースに流れました。高知県の早明浦(さめうら)ダム。四国4県に水を配る「四国のいのちの水がめ」が、記録的なペースで干上がっていったのです。

筆者はもともとヨーロッパの地球観測衛星Sentinel-2(RESTEC解説)を使って遊んでいたのですが、せっかくなのでGoogle Earth Engine上に「2つの期間のSentinel-2画像を並べて見比べられるアプリ」を自作し、渦中の早明浦ダムと、同じく2026年に渇水に見舞われた愛知県の宇連(うれ)ダムを、実際に衛星から覗いてみることにしました。

【図1】Sentinel-2(出典: Copernicus Data Space Ecosystem)

1. Sentinel-2ってどんな衛星?

Sentinel-2は、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)がCopernicus計画の一環で運用している地球観測衛星です。可視光から近赤外・短波長赤外まで13の波長帯(バンド)を観測でき、地上分解能は最も精細なバンドで10m。おまけにデータは全部無料で公開されています。

2026年9月現在、Sentinel-2A(2015年打ち上げ)・2B(2017年)・2C(2024年)の3機が軌道上にあり、条件が良ければ中緯度帯で3日に1回程度、同じ場所を観測できます。ダムの水位変化のような「数週間単位でじわじわ進む現象」を追うには、ちょうどいい更新頻度です。

衛星 打ち上げ日 概要
Sentinel-2A 2015年6月23日 初号機。設計寿命(7.25年)を超えて運用継続。2025年1月にSentinel-2Cへ定常運用を引き継いだが、同年3月から期間限定で3機体制の一員として観測に復帰
Sentinel-2B 2017年3月7日 2号機。180度の位相差を持つ2機体制を構成し、5日間隔(中緯度では2〜3日)の再訪観測を実現
Sentinel-2C 2024年9月5日 3号機。2025年1月21日にSentinel-2Aから定常運用を引き継ぎ、現在はSentinel-2Bとペアで観測中
Sentinel-2D 打ち上げ前(開発中) Sentinel-2Bの後継機として計画中。次世代機として2035年以降のミッション継続を担う予定

表1: Sentinel-2衛星群の概要(出典: ESA/Copernicus公式資料をもとにNotebookLM Deep Researchで整理・筆者にて検証のうえ一部修正)

2. Google Earth Engineで比較アプリを自作

Google Earth Engine(GEE)は、Googleが提供する地球観測データの解析基盤です。LandsatやSentinel、MODISといった衛星データが40年分以上、ペタバイト単位でクラウドにストックされていて、自分のPCに画像を落とすことなくブラウザ上のコードだけで解析が完結します。しかも教育・学術・非営利目的なら無料。太っ腹です。

GEEにはJavaScript APIのuiモジュールというものがあり、ボタンや日付入力欄といった部品を並べるだけで、簡単なWebアプリを作ってGoogleのサーバーにホストできてしまいます。今回はこの仕組みを使って、「2つの期間を指定するとSentinel-2画像をスライダーで見比べられる」アプリを作りました。

https://ee-rymg40.projects.earthengine.app/view/sentinel-2comparing

【図2】住所検索で場所を探せます

【図3】パラメタ(比較する2つの期間)の設定画面

3. 早明浦ダムを見てみる ―「四国のいのちの水がめ」の夏

早明浦ダム(高知県土佐町)は吉野川水系のダムで、徳島・香川・愛媛・高知の4県に水を送る、四国の水がめの代表格です。2026年は6月こそ月間降雨量517mm(平年の160%)と雨に恵まれたものの、7月は平年比34%、8月は平年比19%という記録的な少雨に見舞われ、貯水率は坂を転げ落ちるように低下しました。

日付貯水率取水制限の段階香川県の取水削減率7月29日75.1%自主節水開始―8月3日64.2%第一次取水制限20%8月10日51.1%第二次取水制限35%8月19日35.5%第三次取水制限50%8月28日21.8%第四次取水制限60%9月1日14.2%第四次取水制限(継続)60%9月2日0時12.4%第四次取水制限(継続)60%

表2: 早明浦ダム 2026年渇水対策の経過(出典: 水資源機構・香川県水資源対策課の公式資料。NotebookLM CLIで整理し数値を原典と照合済み)

8月28日の第四次取水制限は、実に2008年(平成20年)以来18年ぶり。当時は貯水率0%の状態が20日間も続き、生活にまで影響が出たといいます。2005年にも貯水率0%まで落ち込みましたが、こちらは9月6日の台風14号のおかげで貯水量が一夜にして100%まで回復するという劇的な展開でした。今回もまとまった雨頼みという状況は変わりません。

【図4】早明浦ダム(左: 2026年5月1日〜31日、右: 2026年8月15日〜9月2日)

実際にSentinel-2画像を並べてみると、右側では湖の縁に沿って地肌がむき出しになった白っぽい帯がくっきりと現れています。数字で「貯水率75%→12%」と言われるより、この露出した湖岸線を見た方が、渇水の深刻さがよほど直感的に伝わってきます。

4. 宇連ダムはどうか ― 東三河のもう一つの水がめ

愛知県新城市の宇連ダムは、豊橋・豊川・蒲郡など東三河地域に水を供給する豊川用水の主要水源です。こちらは早明浦ダムより一足早く、2026年3月17日に貯水率0%まで完全に枯渇し、湖底が露出する事態になりました。その後の梅雨で持ち直し、6月24日には平年並みの69.5%まで回復。学校の校外学習など、渇水中に中止されていた行事も再開されました。

ところが夏に入って再び雨が減り、7月の降水量は平年比38%、8月は平年比14%まで落ち込みます。水資源機構は8月21日から農業用水・水道用水・工業用水一律5%の節水を開始しました。一度回復してもまた締め付けが戻ってくる――今回調べた2つのダムに共通するパターンです。

【図5】宇連ダム(左: 2026年5月1日〜31日、右: 2026年8月15日〜9月2日)

5. 「水を見つける」仕組み ― NDWIという指標

ところで、こうした衛星画像から「ここが水面だ」と機械的に判定するには、どうしているのでしょうか。よく使われるのがNDWI(正規化差分水指数)という指標です。

NDWI = (緑バンドの反射率 − 近赤外バンドの反射率) ÷ (緑バンドの反射率 + 近赤外バンドの反射率)

Sentinel-2で言えばBand3(緑、560nm)とBand8(近赤外、842nm)を使います。水面は緑の光をそこそこ反射する一方、近赤外はほぼ吸収してしまうため、この式に当てはめると値は正(だいたい0.2〜1.0)になります。逆に植生や土壌は近赤外を強く反射するので、値はゼロ以下になる。この差を利用して、衛星画像から水域だけを自動的に浮かび上がらせるわけです。Google Earth Engineの「JRC Global Surface Water」など、世界の湖沼の水域変化をアーカイブしたデータセットも、根っこにはこうした指標があります。

【図6】NDWIによる水域抽出とGoogle Earth Engineによるモニタリングの仕組み

6. まとめ

無料の衛星データと無料の解析基盤を組み合わせるだけで、個人でもダムの水位変化を「見える化」できてしまう時代になったんだなというのが、率直な感想です。とはいえ、今回のアプリはあくまで2枚の画像を並べて目視比較するだけの単純なもので、貯水量そのものを定量的に推定しているわけではありません。雲がかかれば当然その期間の画像は使えませんし、10m分解能では細かい水位変化までは追い切れない場面もあります。

それでも、「貯水率12.4%」という数字だけを眺めるより、実際に湖岸線が後退していく様子を自分の目で確認できたのは大きな収穫でした。次に機会があれば、NDWIを実際に計算して水面積の時系列グラフを作るところまで、GEEアプリを拡張してみたいと思います。